メリークリスマス!
というわけで今年のクリスマスは、例年はラジオをやってたり
していましたが、原点に回帰して
『クリスマス特別書き下ろし小説 【クリスマスカット】』
をお届けします。
あまり細かく考えず、おおらかな気持ちでお読みください。
では、どうぞ〜。
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【クリスマスカット】
そこに床屋がオープンしたことを、俺は
だいぶ前から知っていた。
そこといっても鍋の底とかそういう昭和の歌のような
微妙な抽象をはらんだ意味ではなく、三丁目の
角という形容しがたいそこである。
こじゃれたナチュラルウッド調の、言い換えると木目調の、
いやそのままだが、要するにそういう店構えに、
大きな窓ガラスを配置した。ハイソな。セレブな。セレブか?
ともかくそういう店がある。床屋と言うが、美容室かもしれない。
でも、俺はその差違について細々と語る気はない。
床屋という文字を凝視するとなにか淫微に見えてくるとか、
そういうことでもない。
今まで気にしたこともなかった。
初めての床屋に入るのは、相応に勇気が必要なものだ。
ただ上手いというだけではない。店の雰囲気や何やら、まぁ
いろいろと気になる部分はある。
クリスマスイブのこの日曜日、俺はその床屋に向かった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
@店員
「いらっしゃいませ」
カランカラン言うドアのチャイム。
振り返った店員は、俺の姿を見て深々と頭を下げた。
真昼だというのに客は誰もいない。店員も一人だ。流行ってないのだろうか。
@俺
「どうも」
右手で頭をかきつつ、頭を下げる。マスオさんでもあるまいし、
どこか芝居がかったこの仕草を店員さんがどう思い見ていたか。
それはわからない。
@店員
「どうぞ。こちらへお座り下さい」
あくまでもにこやかに、店員の彼女は案内してくれる。清潔そうな、
髪のそれほど長くない美人である。もっと長い方が似合うように
思えるが、多分練習で切ってしまっているのだろう。
床屋というのはそういうものだと聞いたことがある。
侍が刀を持つと試し切りしたくなるような。
野球選手がバットを持つと思わず振ってしまうような。
中国人が天安門に行くと太極拳をしてしまうような。
政治家が賄賂をもらうような。
そういういわば職業的習慣と反射的行為。床屋の
ファッション一つに明示的な人の哀れさを見た。
@俺
「泣けますね」
@店員
「え?」
@俺
「いえ、何も」
@店員
「早く座って下さい」
@俺
「すいません」
促される。今日はクリスマス・イブ。つまり清純なマリア様が
処女なのに妊娠するという世にも珍しい、科学的に説明しようとすると
面倒くさいことになる画期的な交尾の果てに、お生まれになられた
イエス様の生誕日。その前夜祭である。
誕生日の前夜から祝われるなんてただ者ではない。
@店員
「コートをお預かりします」
@俺
「あ、どうも」
@店員
「今日はパーマでよろしいですか」
@俺
「いえ、カットで」
@店員
「パーマですね」
@俺
「違います」
@店員
「お客様はパーマをかけるべきだと思いますが」
@俺
「……」
彼女は俺の後ろに立ち、にこやかな笑みで佇んでいる。
俺といえば、とりあえずリアクションの取りようもなく座ったままだが。
@俺
「いえ、カットで」
@店員
「パーマの種類はこちらになります。お客様には、このゆるやかな
カールがオススメかと」
@俺
「待て。パーマじゃなくて」
@店員
「待ちません」
@俺
「パーマは全然考慮にも入ってないんで、長さはこのくらいで」
@店員
「パーマを?」
@俺
「かけません」
@店員
「お互い、意地というものがありますよね。わかりますー」
@俺
「わかんない」
@店員
「これなんてどうですか。ウェーブっぽく」
@俺
「それモデルが女の人だろうが」
@店員
「アハハこれで男だったら前代未聞の感じですよ」
@俺
「いやそういうことを言ってるわけではないんで。俺は、カットをしてと
頼んでるんですけど」
@店員
「詳しく話を聞かせてもらってもいいですか」
@俺
「いや、詳しくと言われても」
なんだこの店員は。
彼女は、少なくとも見る限り神妙そうな表情でこちらを覗き込んで、
俺の肩に手を置いた。ぽん、と、叩くように。
@店員
「落ち込んでるのね。わかるわ。気持ちが沈んでいるそんなときこそパーマ」
@俺
「誰も落ち込んでないしかけないし」
@店員
「私の目を見て同じことが言える?」
@俺
「言えるし。見てるし」
@店員
「でしょう」
@俺
「相づちを打つ会話違うけど」
@店員
「お客さんに届いて欲しい。私のこのパーマを愛する想いが」
@俺
「帰っていいか」
@店員
「だめです」
@俺
「いや、どうも会話が根本的な部分で噛み合ってないんで」
@店員
「聞きましょう」
@俺
「いや聞いてないもんあんた」
@店員
「わかりました」
@俺
「何を」
@店員
「百歩譲ってパーマをかけるとしましょう」
@俺
「お前舐めてんのか」
@店員
「実は私、お客様が初めてのお客様なんですよ」
@俺
「ああ、そうなんだ。唐突に何なんだ」
@店員
「一目見た瞬間。店に入ってくる鷹揚とした態度。隙のない視線。
カットなんてクソ安くて面倒くさくて労働単価の安いご注文をされるような
そんな人ではないということを悟りました」
@俺
「ぜってー勘違いだからそれ」
@店員
「プロのカンが働いて」
@俺
「初めての客だって言ってたし」
@店員
「断髪台に立った瞬間から、それがプロデビュー」
@俺
「ちょっと待ってこれ断髪台って言うの?」
@店員
「そんなお客様を見込んでお願いが」
@俺
「パーマをかけてくれとか言うなよ」
@店員
「……」
@俺
「黙んなよ」
@店員
「理屈じゃないんですよね」
@俺
「屁理屈ではあると思うけど」
@店員
「わかりました。その件は先送りにしましょう。パーマをかけた後にでも」
@俺
「時すでに遅いんじゃないか? それは」
@店員
「どうしてもパーマではなく、クソ安くて面倒くさくて労働単価の安いカットを
ご所望ですか」
@俺
「ご所望だが、その前置きも倫理的にどうなんだ」
@店員
「パーマをかければ館ひろしみたいでかっこいいのに」
@俺
「館がいつパーマをかけた。見たことないってそんなの」
@店員
「それじゃあ、ごく普通に、当たり障りなく、適度にダサく切ります……」
@俺
「やめろよ? それは」
@店員
「首とかにこれ、カットクロスっていうやつなんですけど」
@俺
「ああ、この襟巻きポンチョみたいなの」
@店員
「自分で巻いてください」
@俺
「やらせんのか」
@店員
「面倒くさいし。だってカットですよ。なんかしょぼいっていうか、
その辺に座り込んで紅茶でも飲みながら雑誌広げてごろごろしてても
オッケーってぐらいの仕事じゃないですか」
@俺
「ダメだろうそれは。完璧に」
@店員
「……よし。なんとか、落ち込んだ気持ちを盛り上げていきたいと
思います。やりましょう! お客様にやらせるなんて、確かに間違って
ますから。ここは私に全て任せてもらえますか」
@俺
「なんでかなぁ。なんでこんなにアッタマ来るんだろうなぁ」
店員は、毒づく俺を無視して、俺の首にあの、理容院でおなじみのナイロンの
エプロンのようなものを巻き始めた。
@店員
「苦しくないですか」
@俺
「すっげぇ苦しいんですけど」
@店員
「我慢してください」
@俺
「なんでだ」
@店員
「ああ、勝手に緩めたら髪の毛が入っちゃうじゃないですか。
すっごいちくちくしますよ。
もしかしてそれが狙いですか」
@俺
「そんなエッジの効いた狙いはいらん」
@店員
「髪とか汚くて触りたくないんで洗ってもいいですか?」
@俺
「お前本当にいい加減にしろよ」
@店員
「じゃあまずリンスで」
@俺
「シャンプーだろ」
@店員
「すみません。専門的なことでつい勘違いを」
@俺
「シャンプーとリンスの順番は子供でも知ってる常識なんだが」
@店員
「またまたご謙遜を」
@俺
「なんでそうなる」
@店員
「はいじゃあ、タッターっとやりますよ。はいはい。
じゃあシャンプー液かけます。はいシャンプー液きたー
デーデンデーデンデッデッデッデッデッデッデ(JAWSのテーマ)」
@俺
「ちょっと待て」
@店員
「はい?」
@俺
「それ、パーマ液だろう」
@店員
「ちがいます」
@俺
「いや、なんか嗅いだことある臭いがする」
@店員
「違いますよシャンプーですよ」
@俺
「いや絶対パーマ液だって」
@店員
「じゃあ、そこまで言うなら仮にそうだったとしましょう。その時はお客様はどうするんですか」
@俺
「どうするもこうするもあるかボケ」
@店員
「所詮、お客様ごときの立場で私の行動を止められるはずなんかないのです」
@俺
「言ってる意味がわかってるのか? そこまで言うならそのボトル貸せ」
@店員
「いえ、これはパーマ液なので素人が触るのは危険です」
@俺
「……」
@店員
「……てへ」
@俺
「てへじゃねーから」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
@店員
「私、生き別れた兄がいたんです」
@俺
「今度は何なんだ。身の上話か」
ちょきちょきと鋏を入れながら、店員は勝手に話している。
相変わらず店には誰も入ってこない。流行ってない理由は何となくわかった。
@店員
「いつかその兄に出会って、『徳光和夫の感動再会“逢いたい”』に
出演しちゃうかもどうしようと思って理髪技術を磨く毎日だったんです。
あれけっこうギャラとかキますよね」
@俺
「知らんわ」
@店員
「徳光さんってあれ絶対嘘泣きですよ」
@俺
「いやだから知らんって」
@店員
「美容師の学校で、お客様との会話を弾ませるためには疑問系で聞く方がいいって
言ってたんですけど、どうもうまくいかない気がするのはお客様の会話が
つまらないからだと思うんですか?」
@俺
「ケンカを売りながら無理矢理疑問系にするから会話が成立しないとは思わんのか」
@店員
「そういえば今日、クリスマスイブですよね」
@俺
「また話が変わるのか。ああ、そういうことらしい」
@店員
「私思うんですけど、クリスマスに恋人がいない男女ってすごい負け組っぽい気が
しますよね?」
@俺
「……」
@店員
「……」
ちょきちょき
@俺
「……」
@店員
「……」
@俺
「……」
@店員
「……」
ちょきちょき
@俺
「……」
@店員
「……」
@俺
「……」
@店員
「……」
@俺
「……」
@店員
「春、ですねー」
@俺
「冬だよ」
@店員
「……」
@俺
「……」
ちょきちょき
@店員
「昨今の株式市場についてどう思いますか?」
@俺
「いや、特に興味ないし」
@店員
「そうですか」
@俺
「何かオススメの銘柄とかあるのか?」
@店員
「いえ、私あまり詳しくなくて」
@俺
「……」
ちょきちょきちょきちょき……
@店員
「……」
@俺
「……」
@店員
「……」
@俺
「……」
@店員
「私、生き別れた」
@俺
「いやそれもう言ったし」
@店員
「……」
ちょきちょき
@俺
「……」
@店員
「……」
@俺
「……」
@店員
「お客さんは、出身はどちらですか?」
@俺
「ここ」
@店員
「東京ですかぁ」
@俺
「ああ」
@店員
「奇遇ですね」
@俺
「ああ。地元?」
@店員
「私、群馬なんですよ」
@俺
「……ああ、そう。群馬か」
@店員
「はい」
@俺
「前橋?」
@店員
「あ、群馬お詳しいですか?」
@俺
「いや別にそれほどでもないけど。どこ?」
@店員
「群馬県甘楽郡南牧村です」

@俺
「……か、かんら?」
@店員
「群馬県甘楽郡南牧村。知りませんか?」

@俺
「……何か特産品とか?」
@店員
「いえ、特に何もないです。しいていえば炭ですか」

@俺
「……炭か」
@店員
「はい。炭です」
ちょきちょき
@俺
「……」
@店員
「……」
@俺
「ちょっといいだろうか。さっきから気になっていたことがあるんだが」
@店員
「はい?」
@俺
「めちゃくちゃ無理して会話をしようと試みてるのはわかるが、完璧に不快だ」
@店員
「あはは。そんな馬鹿な」
@俺
「気づいてなかったのか……」
@店員
「寡黙な方だなって思ってましたけど、無口な人ってちょっと
シブいなーって思いますし大丈夫ですよ。キモいとかちっとも
思ってませんから」
@俺
「俺のせいになってる気もしていたんだ」
@店員
「そうですよね」
@俺
「どこからそんな勘違いが生まれるのか」
@店員
「そういえばこのお店、あまり流行ってないんですよ」
@俺
「よくわかる」
@店員
「今流行のメイド美容院とかやってみようと思ってコスチュームも用意したんですが」
@俺
「店の前を通りがかってもそんな格好していた事はなかったような」
@店員
「少し創意工夫を懲らして、お客様に着させてみたりしていたんですが」
@俺
「斬新な着眼点だな」
@店員
「どういうわけかそれも不評で」
@俺
「好評だったらこの地区から逃げたい気分になっていたよ」
@店員
「私には特に落ち度もないと思うのですが」
@俺
「落ち度しかないの間違いでは」
@店員
「わかりました。じゃあ、もっと弾む感じの会話を」
@俺
「いや、できればもう黙ってて欲しいんだが」
ちょきちょき
@店員
「だって今日、クリスマスじゃないですか?」
@俺
「だっても何も、そうだな」
@店員
「クリスマスって言うと、しとめた七面鳥を殺して焼いて食べたり、
ケーキをナイフでバラバラに切断したりする猟奇的なお祭りじゃ
ないですか?」
@俺
「ねぇよ」
@店員
「素性も誰も知らないサンタクロースとか言う浮浪者が、
悪魔合体した鹿みたいな獣にそりを引かせて、家屋に
無断進入しては親を無視して子供に賄賂を贈るんですよね?」
@俺
「なにか嫌なことでもあったのか?」
@店員
「プレゼントを調達する以上、キャッシュフローがあるはずなのに
それも明確にしていないと言うことは、サンタクロースは
税金対策のために無償でプレゼントを放出してるとしか
思えないんですか?」
@俺
「どこまで子供の夢を奪えば気が済むんだ」
@店員
「外は寒いのに、サンタさんも大変ですね」
@俺
「お前が言うな」
@店員
「……」
@俺
「……」
ちょきちょき
@店員
「……弾んだ」
@俺
「弾んでねぇ」
@店員
「……」
@俺
「……」
ちょきちょき
@店員
「もみあげは普通にしましょうか? 斜めにしますか? それとも山切りカット?」
@俺
「普通でいい」
@店員
「山切りですね」
@俺
「殴りたい」
@店員
「では、世間一般で無難すぎる何の特徴もなく社会に埋もれて
絶望的な気分でリストラに遭いそうな普通のもみあげでいいですか?」
@俺
「その前置きはやめろと言ってるのがわからんのか」
@店員
「あっ」
@俺
「何だ。今度は何をした」
@店員
「今日の映画の録画予約忘れました」
@俺
「黙れ」
@店員
「……」
@俺
「……」
ちょきちょき
@店員
「あっ」
@俺
「……」
@店員
「あっ」
@俺
「……」
@店員
「あっ」
@俺
「反応するまでやめない気かこの野郎」
@店員
「お客様はこんな日にパーマもかけずにカットのみの貧乏な身で
大変だとは思いますけど」
@俺
「お前ずっとそんなことを考えてたんだろ。というよりそう見てたろ」
@店員
「差し出がましいようですけど、彼女もいない独り身のクリスマスで、
最期くらいは綺麗な身でいたいという後ろ向きな考え方は良くないと
思いますよ」
@俺
「本当に差し出がましいな」
@店員
「私なら今日、この後予定あいてますけど」
@俺
「……は?」
@店員
「お客さんのワイルドな感じに一目惚れしちゃったみたいで」
@俺
「いや、どの辺がどうワイルドなのか」
@店員
「今晩はもうどうされちゃってもいいって気分で」
@俺
「……」
@店員
「……マンション買ってほしい」
@俺
「その台詞は今の段階で言うとミステイクだろ」
@店員
「お客様、生命保険って何に入ってますか?」
@俺
「入ってないし、入ってても絶対に言わないし」
@店員
「私と一緒に死んで欲しいなって」
@俺
「いや絶対一緒とか言っておいて自分だけ助かる系だと思う」
ちょきちょき
@店員
「車とかありますか?」
@俺
「とことん話聞かんつもりか。いや、持ってないが」
@店員
「じゃあ、借りましょう」
@俺
「意図がよくわからないんだが」
ちょきちょき
@店員
「お台場のレストランマップとかあるんですよ」
@俺
「そうか」
@店員
「時間は何時頃にしましょうか?」
@俺
「いや、行かないから」
@店員
「18時ですね」
@俺
「無線かなにかと交信してないか? さっきから」
@店員
「豊島園にも行きたいですね」
@俺
「開いてないだろ」
@店員
「私が食事の後に『今日はもう帰る』って言うのは、一応、フラグなんで」
@俺
「フラグって何だよ」
@店員
「お客様、みすぼらしく仕上がりましたので鏡をどうぞ」
@俺
「確かにどうしようもなく下手くそな感じで出来上がったな」
@店員
「気に入らないところがございましたら有料でお直ししますが」
@俺
「今よりひどくなるのは目に見えてるから結構だ」
@店員
「そちらでお休みになってください。コーヒーをお出しします。有料で」
@俺
「もう会計済ませて速攻で帰りたいから、それも結構だ」
@店員
「はい。ではお会計は、42,668円です」
@俺
「たけぇよ!!」
@店員
「あ、すみません。デート費用の前払い分が」
@俺
「行かんと言ってんだろうが」
@店員
「ステップアップチャーンス」
@俺
「何だよ」
@店員
「会計が2倍になるチャンスタイムが来ました」
@俺
「来てたまるか」
@店員
「謙虚な方。そういうところも好き」
@俺
「迷惑だ」
@店員
「カット料金は3,200円になります」
@俺
「なんか外の表示価格よりそれでも200円高い気がするんだが」
@店員
「私の所得税です」
@俺
「どんな税制だよ」
@店員
「では、負けに負けて3,000円でいかがでしょうか貧乏人」
@俺
「暴れていいか?」
@店員
「通報しますよ?」
@俺
「俺がしたいわ馬鹿野郎」
@店員
「チップもなしで3,000円お預かりします。ありがとうございました」
@俺
「もう絶対二度と来ないから」
@店員
「いえ、きっとお客様はすぐにでもご来店してくれます」
@俺
「するわけないだろ馬鹿かお前は」
@店員
「いえ、必ずいらっしゃいます」
@俺
「……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
@俺
「ひどい目に遭った……」
見ず知らずの理容院に行くのは危険が一杯だ。
どんな事が起こるか解らない。
しかしあれは一体何だったのか。
異常な店員の、異常な戯言なのか。
最後の最後まで、俺がまた来店すると言い切っていた。
正直もう店の前を通るのも嫌だと思うのに。
その自信。言い切った理由。それはわからないままだ。
乾いた寒風が、服の隙間から染み込んでくるような冬。
クリスマスイブ。
風が冷たい。帰り道を歩きながら、俺は身を縮めるようにして
コートのポケットに手を突っ込んだ。
そして、そのままその場で立ち止まる。ポケットの中の手を、
ゆっくりと抜き取って。
「あの店員、コートのポケットから家の鍵抜き取りやがった!!」
今まで気にしたこともなかった。
初めての床屋に入るのは、相応に勇気が必要なものだ。
そこに待ち受けている出会いなど、そういういろいろなものを含めて。
<END>