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Way to the Blue 46話

(46)


まず、第一に。

昨日までの自分を肯定してくれること。


第二に。

明日からの自分を見守ってくれること。


第三に。

現在の自分を好きになること。


たった三つの約束が、彼と私を繋ぎ止めている。
何があったとしても。

人生には悲しい別れがたくさんあって、
その別れを認められないこともある。

私にはそんな過去がある。


悲しい別れは彼にもあって、

私はそれを、まるで自分のことのように悲しむ。

何度も、何度も。

降りしきる雨の中で、雨に打たれ、雨に嘆き、
雨と交わした約束を胸に抱きながら、
それでも前に進もうとする。


奇跡は私たちの道を照らしてくれた。

冷たい雨の向こうには、雨上がりの虹が待っていることを
信じながら生きる。
そういう生き方を教えてくれた。

今もこうして瞼を閉じれば、雨音が聞こえてくる。

この仕事が終わったら
家へ帰ろう。

待っている人がそこにいるのだから。


「お嬢様」

呼び掛けられ、閉じていた目を開いた。

ひょっとしたら、少し眠っていたのかもしれない。霧がかかったような
脳の連絡回路が、様々なものを繋ぐまで、およそ3秒を費やした。

騒々しい風切り音がフェードインするように耳に戻ってくる。

「徳永」

「間もなく到着いたします。お嬢様」

「そう。時間は?」

「8時50分でございます」

コバルトブルーの領域と、肌色の絵の具で塗ったような海岸が窓を通して
見えた。

彼女は、エンジ色のつばの広い円帽子を片手で軽く直して、呟いた。

「紅茶を飲む時間もないのですか」
「離陸許可が遅れまして」
「早くしろと言わなければ早く出来ないのですか。ああいうのは。
無能が順番を仕切るのならば、信号機にでもやらせたほうがいいですね」
「申し訳ございません」
「徳永が謝ることでもないでしょう。私もいちいち咎めるのをやめます。
呪いの言葉を吐いて呪われるほど簡単なら、藁人形屋が倒産します」
「左様ですな」

つまらなくなり、彼女はひとつため息をついた。

そろそろ足が、地面に恋い焦がれているような気がした。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



有沢高浩は、今のところ独り身だった。

もちろん結婚という意味でもない。当たり前のことだが、彼は
高校生で、まだまだ若い。家族というのは父親と母親であり、
現在は、父親も母親もいない。どちらもごく最近亡くなった。

よくよく考えてみれば孤独な身なのだから、何かのしがらみを
背負っているわけではない。

最近、飼いモモンガのとーらも頻繁にいなくなる。いなくなっては
泥だらけになって帰ってくる。

それと大して変わらない。

高浩は、朝の道を歩いていた。夜に比べれば随分活気がある
町並みだが、それはせいぜい、軒先を掃除しているおばさんと
挨拶を交わす程度のことである。この常葉町で数多くの人とすれ違う
ようなことは、基本的にはない。

日課となっている荷物配達と、ご老人の御用聞きの途中である。

こうしている時も、心のなかにはまだ、昨日の夜のことが
ざわざわとした感触でしがみついているのだ。

そう、だから――


  「私を東京に連れていってくれないか」


誰に対するしがらみもない、ということ、だ。

「……そんな事を言ったってなぁ。しがらみとか以前の問題じゃないか」

昨晩。祭りの帰り道で、突然そんな事を頼まれた。
吉野千歳。あの住職の娘に。

高浩は即答することができず、また後日返答すると言った。

木桧みずほを背負い、彼女を家に送る間も、ずっと。

ずっと、高浩は考えていた。


みずほを彼女の母親に預け、月光の下、夜露でしっとりと湿った道を歩く
間も、ずっと考えていた。
東京でも、彼女ほど美しい女の子には出会ったことがない。
千歳を友人に見せたとしたら、それは驚くだろうし、見せてみたいと
そんな風に考えるのも仕方がない。


彼女も、旭川なら一緒に行ったが、それより遠方にはどこにも行ったことが
ないのだから、何もかもがスケールの大きい、洗練された美しい東京の
丸の内の街並みを見せてみたいなんて事も考える。

こちらではアウェーだが、東京ならホームグラウンドだし、
彼女が驚きそうなものも、最近開業した日本で最も高い電波塔も見せて
あげることができる。

浅草から見るあの塔は、感嘆するほどに大きいのだ。


そして、それを案内することは、自分にとってもきっと楽しいだろう。
高浩自身、彼女に対して多少なりとも、好意を抱いてはいることを認めて
いるのだ。言ってみればデートだ。楽しいのは間違いない。



そうだろう。


……



「そう、考えているならまだ良いんだ。それが、普通なんだから」

ごく当たり前な東京旅行だ。

旅行というのは、楽しい想い出を作ることができる、娯楽のひとつだ。

問題は。

千歳の言うその言葉の意味が、
決して、それではないということだった。

  「私を東京につれていって欲しい。そして、母親に……会いたい」




彼女は、

東京で彼女の母親に会いたい、そう願っている。

「あー……!」

わしわしと、右手で頭を掻いた。
千歳の性格はある程度わかっている。
一度そう思ったなら、彼女はどこまでも諦めないだろう。

それは少し前、吉野洸清、つまり千歳の父親に会ったときに、話したことの
繰り返しになる。

吉野渚。彼女の母親は、デザイナーになる夢を諦めきれずに復学した。
しかしその後、消息不明になった。

  「どうして東京なんだ?」
  「母がそこにいると聞いた」



嘘だ。

高浩は、彼女がそう言った瞬間に本当は、そう言いたかった。
嘘なんだ。

喉元まで出かかる言葉は霧散し、聴こえない溜め息に変わる。


  「父がそう言っていた。母は今、東京で仕事をしている」



奥歯が、嫌な音を立てる。

それは嘘なんだ。

本当は札幌の大学に復学して、しばらくの後、下宿先から消えた。
札幌では簡単に探しに行けるから、吉野洸清がついた嘘だ。
東京に行っても母親はいない。

いないんだ。
来たって無駄なんだ。探し求めている人には会えない。
そこにいないのだから。

  「私は何とかして、母親の住所を聞き出す。いや、わからないように
  調べてみる。きっと手がかりがあるはずなんだ。一緒に探してくれないか。
  探すのに協力できないというなら、せめてしばらく住まわしてくれないか。
  決して邪魔にならないようにする。料理や掃除、洗濯には自信もあるし、
  だから、どうかお願いする。この通りだ。私には、今しかないような気が
  するんだ。今しか……。そんな気が……する」


学校があるとか、父親が反対するとか、そんな言葉で逃げられるような
語気ではない。真剣に、彼女は思っていた。
その思いが、辛くて辛くてしかたがない。

高浩は思う。母親が死んだことを知っている自分。そして真実を知らない千歳。
どちらも不幸ではあっても、そこには決定的な差がある。

それをかわいそうだと思う。同情する。
真実を知ることができればいいと思う。
しかし、それは、きっと残酷な結果にしかならないのではないか?

彼女の父親は、少なくともそんなことを望んでいないだろう。
知ることと、許すことは別だ。




高浩は、答えが出せなかった。

いくら考えても、どうしようもなかった。

せめて、吉野洸清から、彼女の母親が失踪した経緯を聞いてさえいなければ、
何も考えずに千歳を東京へ連れて行けたのかもしれない。

そして、母親が見つからず、残念だったなと慰められたのかもしれない。

だが、今の自分ではダメだ。
そんな事はできない。
それは、真っ直ぐに生きている吉野千歳に対し、あまりにも冷酷だ。

真っ青な空と、かすれたように淡い雲を見つめて呟いた。

「俺は、彼女に嘘をつけない。そんな気がする。そして、見抜かれて、
よりひどく傷つけてしまう気がするんだ」

予感というより確信だった。
だから、本当のことを言うしかないんだろうと、思った。
吉野洸清、彼女の父親に謝ることになったとしても。







そのとき、あれほど照っていた太陽が欠けた。





バタタタタタタタタタタ


急速に近づく轟音。

そして強くなってくる風。

吹き上がる砂ぼこり。


大きな黒い物体が近づく。


「……!?」


高浩は、声も上げられずに立ち尽くしていた。
大空から舞い降りてきたそれは、ヘリコプターである。

道路のど真ん中に、唐突にヘリコプターが降りてきたのだ。

暴風とも言える風が身体を吹き飛ばしにかかる。こんな近距離でヘリコプターを
見たのは初めてだ。案外小さいような気がするが、音に圧倒される。


着陸したヘリコプターの操縦席のドアが開く。スーツ、というかタキシード姿の
初老の紳士が降り、次に客室のスライドドアを引いた。

恭しく紳士が手を差し出すと、客室から象牙色の美しい手が伸びて、
それに重ねられた。

タッ

ブーツがアスファルトを蹴る音。

ふぁさっ、っと、腰まである、長い髪の毛が風に舞った。象牙色の細腕は、頭の
ワイン色をしたベルベットの丸帽子を抑えていた。女性だ。
その若い女性は、たくさんのプリーツがあるチェック柄の、クラシカルな
ゴシックスカートに、フリルが白いライン状に入った丸首ブラウスと
リボンを組み合わせた出で立ちで、真っ黒いヘリコプターから降りてきた。

尋常ではない。

その、原宿でよく見るゴシックロリータ風な格好と、全く不釣り合いな
ヘリコプターのコントラストもそう。しかも、降りてきたのはとびきりの、
お姫様のような色白の美少女だった。

ヘリコプターの羽の回転がゆっくりになって、ようやく風も収まってくる。

彼女は、青みがかった大きな瞳で、驚いて戸惑っている高浩のことを
じっと見ていた。高浩は、彼女は一体なんなのか。どういうつもりで、
この町に、しかも道路に、ヘリコプターで降りてきたのか聞こうと思った。

思ったが、それこそ、考えがまとまらない。何しろ突然の事だ。

皮のブーツが地面を踏んで、前へ進む。

前には高浩がいる。呆然としている高浩が。

「もしもし、道を尋ねたいのですが」

落ち着いた声。だが、高めの可愛らしい音階で、耳に残るような優しげな
雰囲気を醸し出す。その、異世界からやってきたような女の子の声。

「……はい?」

高浩はそれだけ、やっと返した。
女性はさらに続ける。

「この近くに、蒸気機関車があるはずなのですが、ご存じですか?」
「え、あ、ああ。知ってるけど、一体どうして」
「では、案内していただけますか」
「え、いや」

高浩は手を降る。

「ちょっと今仕事中で、場所を教えるから自分で行ってくれないか」
「なるほど。勤労に励んでいるのですか。お若い身空で大したものですね」

おそらく、そんなには年が違わない……多分いくつか年上といった程度の
彼女は、極上の笑顔でにっこりと微笑んだ。

「しかしこの私の要請は、その場所へ案内をしろという意味でしたのですが、
貴方の耳はどうやら耳の形をしたチクワだった模様で、要請の言葉をうっかり
聞き逃していたと私は判断しました。そこで寛容なことに、私はもう一度、
貴方の残念すぎる腐りチクワにも聞こえるように、優しくはっきりと
お願いさせていただきます。その場所へご案内していただきたいのですが」

微笑みを携えたまま、よく通る声でそう言った。

……とても美しい声で。

「……は?」

「では参りましょうか。お先にどうぞ」

「……あの、だからね、俺は配達中の――!!」

しゃべっているその口に
冷たい感触があって、慌てて口を……閉じ、なかった。

「お嬢様。一般市民でございます。何卒」

執事風の紳士が穏やかに言うが、彼女は……。

彼女は、高浩の口に、銀色に鈍く輝く両刃のナイフを『こじ入れて』、
相変わらずにっこりと微笑んでる。ナイフは横向きで、例えて言うなら
今の状況は、内科で喉の炎症を診察されるときに、舌を金属の板で
押し下げている時の、あんな状況である。

口をとっさに閉じていたら、どうなっていたかはわからない。

「徳永、この一般市民の男性は、私のエスコートを拒否しました。
それも私の貴重な時間を費やし、豚でもわかるように、心の底から二度も
お願いをしたにも関わらず。それは許しがたき事です」
「お嬢様の言には一理あります」

ないよ!!

高浩は口が効けないが、思いっきり心の中でツッ込んだ。

「優しくお願いしても無理なのであれば、刃物でお願いするのが私の流儀です」

嫌な流儀すぎる。

「しかしお嬢様。お時間もございますので何卒」
「……仕方がありませんね。徳永がそこまで言うのであれば
ここは刃を引きましょう」

刃物を突きつけた女は、馴れた手つきでナイフを折り畳むと、腰の後ろ辺りに
ごそごそと仕舞い、
頬にかかった長い髪の毛を片手で払うと、腰に手を当てた。

「物事、交渉で大切なことというのは、要求と譲歩のバランスにあります」
「……何がだ……」

高浩は口元が無事なのか確かめながらうめく。
その女は、全く悪びれる様子もなく、というよりむしろ、高浩をたしなめる
ような口調で言ってのけた。

「私はナイフをしまう譲歩をしましたので、要求を飲むべきです」

いやいやいやいやいや!!

唖然として肩を落とした高浩は、ひどくムカムカするこめかみの辺りを
右手で押さえて、呟いた。

「お前何とんでもないこと抜かしやがる。先に刃物を出して、それを引っ込めて
譲歩しましたってどういう神経で」
「お前?」

女は眉間にシワを寄せ、その単語を繰り返した。

「お前と言いましたか」
「言って悪いか。突然現れて人にむっちゃくちゃなゴブッ!?」

喋っている途中に、彼女のスカートが突然跳ね上がったと高浩が
認識した瞬間には、ブーツの先端が下腹部に突き刺さっていた。

「お前って呼ばないでください。大変不愉快ですので」

かなり本格的に痛かった。蹴られた下腹部は要するに男性器の上辺りで
そっち側ではないのだが、膀胱の真上であり、皮膚も脂肪も筋肉も
薄い、全く鍛えられない部分である。そこに先のとがったブーツが
めり込んだのだから痛くないわけがない。

「私は、倉石悠と申します。気安く悠と読んでいただいて結構ですが、
あえて敬称をつけたいと思うのであれば、『様』でお願いします。
おや、もしかして痛かったのでしょうか? ごめんなさい一言断ってから
蹴るべきでしたか」

高浩は自他ともに認めるぐらい温厚で品行方正に生きてきたと
思っているが(評価基準の中間を学校で教師を殴る生徒レベルにするなら
大分マシであるという程度に)
さすがにこうも理不尽にやられては、黙っていられない。

「な、に、し、や、が、る……!!」
「看過できない言葉のハラスメントに対してか弱い女性が出来る事と言えば、
人体の急所を金属入りのブーツで蹴り上げることぐらいしかできません」
「か弱い女性があんな本気で蹴るか!!」
「それにしても膝をついて泣きわめくか昏倒するかと思いましたが、
意外に頑丈な男ですね。孝一並に」

誰かはわからない人間と比較されて嬉しいものでもない。

「わかりました。その根性を高く評価し、テストは合格とします。私を
蒸気機関車が置いているところまで案内する権利を差し上げます。
まさか断るわけはないでしょうが、断れば――先程蹴った場所の少し下に
象が踏んでも壊れない特殊金属入りブーツがめり込み、睾丸の2~3個は
砕け散ることになりますが、どうですか」
「ふざけんな!! てか3個あるわけないだろうが!」

そういう問題でもないのだが。

「徳永、3個はないのですか?」
「ございませんお嬢様」
「そう……だったのですか……」

なぜかよくわからないが、女はショックを受けているようだった。

「2.5個という事はないですか?」
「ございませんお嬢様」
「それは残念です」

「あれー? こんなとこにへりこぷたーが止まってる!!」

陽気そうな少女の声が聞こえて、高浩は振り返った。

「遊花?」

牧野遊花。中学二年生の女の子で、髪の毛を二つ結びにした、まだあどけなさが
残る女の子だった。

高浩はこの子に、なんとなく理由もなく、なつかれている。

「タカ兄ちゃんはどうしたの? このへりこぷたー」
「いや、ちょっとな」

どうと言われても説明のしようがない。

「そうだ、遊花。ちょっとお願いがあるんだが」

ちょうどいいところに遊花が現れたので、彼女に、その倉石悠という女が
C62の倉庫に行きたいと言っている件を伝えた。

「シロクニの倉庫に案内して欲しいんだ? わかった! 遊花がつれていく!」
「頼んだ」
「後でタカ兄ちゃんも来てね。一緒に遊ぼうね。夕方はお祭りね。今日は
一緒に回ろうね。遊花と一緒にね」
「ああ、わかったよ」
「わーい、タカ兄ちゃん大好き!! いいこいいこしてあげる!」
「しなくていいしなくていい」

ぴょんぴょん飛びながら、撫でるというか軽く頭を叩いてくる遊花を
適当にあやしつつ、悠に。

「じゃあそういうことで、倉庫にはこの子が案内しますんで」
「そうですか。それはそれとして、あなた」
「俺はもう行くんで。それじゃ」

歩こうとした時、
ちくり、と背中に針で刺されたような痛みが走る。

「そういえば、あなたの名前を聞いていませんが。まさか女性に名乗らせて
おいて、名前も言わずに立ち去ろうとしていませんか? 一体どのような
貧困な教育を受けたら、そのような礼を失した人間が育つのでしょうか。
ですよね、タカ兄ちゃんとやら?」

ナイフで背中を突っつきながら言う倉石悠に、いい加減反抗する気力も失せ
半ば諦めながら、振り返りもせずに高浩は名乗った。

「……有沢高浩だよ」
「有沢? 関係者ですか?」
「関係者? 何の事だ?」
「蒸気機関車の所有者に関係する者かどうか聞いているのです」
「……? 所有者は俺じゃないだろ。関係者って言うなら関係はあるかもな。
元々は俺の曾祖父の持ち物だったらしいし」
「そうですか。よくわかりました。どうぞご自由に」

背中の威圧感がなくなり、高浩は怪訝そうに振り返った。

倉石悠。変な格好の彼女はもう背を向けて、遊花を先頭に歩き出していた。
高浩の事など忘れたような態度で。

「私は牧野遊花だよ!」
「倉石悠です。悠とお呼びなさい」
「悠ちゃんね。かわいい名前だね!」
「馴れ馴れしく呼ばないでください」

そんなことを喋りながら遠ざかっていく3人を見て、高浩は何か、
なんとも言えない胸騒ぎを感じていた。

その胸騒ぎの原因は何なのか。

路上に置きっぱなしのヘリコプターを見て、実際のところ……
本当に、言葉にはならない違和感を感じていた。



その日、高浩は極めて早いペースで残りの仕事を片付けた。
ところどころ走っていたので、時間にしてみればほんの20分か
そのぐらいだった。

天気はとても良くて、さわやかな風が吹く午前の常葉町。


それでもうっすらと汗をかくほどに、急ぎ足で『倉庫』へと
向かったのだった。

どちらかといえばその時は、漠然とした不安と言うか、疑問と言うか、
その程度のものだった。

様々なことが時間をかけて理解できてくる。

理解できれくれば、不可解なことがいくつも浮かんでくるのだ。
それは、そもそもの話だ。


彼女が

『なぜ来たのか?』


ひどく簡潔で、単純で、それなのに複雑な問題は、
高浩が倉庫の前にたどり着いたときにほぼ、顕在化していたのだった。


端的に言えば、最悪の状況でもって。


「シロクニにさわらないで!! これは遊花のものなの!!」


開け放たれた倉庫の扉の中で、牧野遊花は泣きながら、そう叫んでいた。




(46)終
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