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Way to the BLUE -Railway3- 0話


Way to the BLUE -Railway3-


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――握りしめた手を、そっと開いてみた……。

七つの歳のお祝いは、甘く、そして辛い別れを内包する。
肩を抱き、それから抱きしめられた。柔らかく暖かな感触は
春のように優しかった。

甘い香りがする。鼻腔をくすぐるそれは花の香りだと、
その時になって初めて気づいた。

見上げれば、空はどこまでも青く染まり……
雲は白の領海を守っていた。思えば……あの空の雲と空は
決して混じり合うことがなかったと記憶している。

暑い季節を思わせる。そのコントラストの深さに、悲しみが
染められていくような感覚。ブルーの闇に、意識が溶けてゆく。

空は青く、どこまでも青く……。
雲は白く、どこまでも……。

そして涙がこぼれると。
肩を抱く手が、不意に緩んだ。

それが別れの合図だと、僕たちは知っていた。





追憶。

海と空の境界。

純白の雲。

焼け付くような日差し。

赤錆びた一本の線路。

終末の場所。



Railway




それは9年前の話だった。

有沢浩樹が最後にこの鉄道に乗った日だったと覚えている。
常緑の狭間からこぼれる光が、ディーゼル列車の
くすんだ銀色を照らす。窓枠には錆が浮いていた。

汽車はゆっくりと終着駅と向かってゆく。
ただ一人と一匹を乗せて。

「……」

彼は深くからこみ上げてきた感嘆を、そのまま吐き出した。

流れてゆく景色は、30年も前と何も変わらないのだろう。
少年は、不意に心地よさを覚えた。
その緑の優しさに心奪われてしまったかのように。

だからというわけではないが。
Gパンのポケットから携帯電話を取り出し、窓越しに
見える景色へ向けた。
パシ、パシ、と、人工的なシャッター音が響く。
撮れたのは海と、砂浜と、そして空。
まっさらな青空。
それを本州の友人にメールで送ろうとした。

しかしアンテナマークは表示されておらず、そこが
使用圏外であることを示している。

有沢高浩は二つ折りのそれをポケットにしまって、
再び窓の外を見た。
不思議と、見たことがあるような気がしていた。この景色を。

「……本当に……」

彼は呟いた。

「……本当に、見たことがあるのかもしれないけどな」

含むような笑いと共に。
言葉に意味はないように思えた。

確信も確証もない独り言だった。
だがそう思った。そうであってほしいとさえ思った。

たとえば、幼い頃にこの景色を見たとしたら、それは
記憶に残るだろうか。

記憶なんて、そんな都合の良いものではないだろうから。

16歳になった彼は、孤独な電車の中で皮肉気に笑う。

「父親が見た景色が、そのまま自分にとって懐かしいはずが
ないように。そーだろ……普通」

「き?」

「ん、お前に聞いてないよ。とーら」

持ってきた旅行鞄の中から聞こえた声に、コン、と鞄を叩くことで
応える。静かにはなった。

「動物を車内に持ち込まないで下さい、らしいから」

もう3時間も汽車に乗っていれば……いや、むしろずっと
バッグの中に詰め込まれていれば、不平不満も募ろうが。

そこにいる小さな生き物に語りかけた。これも、意味など
無いだろうが。

「我慢しろよ。俺だって、一人旅は初めてなんだから」

彼は車内から、流れてゆく景色を見ていた。
緑の並木、それは雑木とも言えるほどにまばらで、防風林としての
役割すら怪しい。

しかし緑は映えていた。目に優しいどころか、眩しいほどに輝いている。

雰囲気が、変わっていた。

汽車は速度を落としている。
木製のホームが見えてきた。遠泊の駅が近づいてくる。

「そろそろ着くから、待ってろよ。とーら。もうすぐ常葉町……の
一つ手前の遠泊だ。そっからは歩きだ。親父もそうしたらしいから」

最後に付け加えた言葉は理由じゃないだろうな、と
高浩は笑う。

道はいくつでもあった。
そこに至る道は、この世に無限に。
それでも選ぶその意味が、何なのか。

それは、
今は亡き父親『有沢浩樹』と、同じくこの世を去った母親が
故郷へと帰る道程だからだった。

人はそれを感傷と呼ぶ。
価値のある行動ではない。
感傷に価値がないことは、誰にとっても周知のことだ。

同時にそれは、無意味でもないのだ……。


0話終

1話へ続く
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| 連続小説 Way to the BLUE | 03:22 | comments:2 | trackbacks(-) | TOP↑

COMMENT

おひさしぶりです。
じっくり読ませていただこうと思います。
emuが無くなってもうかなりたちますね。

| saboten | 2007/08/06 01:04 | URL | ≫ EDIT

sabotenさん、お久しぶりです。
物語は進行形で進んでいきますので
今想定している状況ともまた違う方向へ話が
どんどん広がっていったり進んでいったり
そういうこともあるかもしれません。
御意見ご感想どうかよろしくお願いします。

| もりあき | 2007/08/07 14:56 | URL |















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