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Way to the BLUE 9話

(9)


常葉町。

かつては漁業で栄えた。歴史書にも登場するほどニシンの
漁獲が高かった町。その集落としての歴史は数百年。アイヌの
時代から続いている。

現在もなお、そこにはかつての栄華を匂わせるような雰囲気がある。
川に架かる橋一つとっても、しっかりとしたものだ。町役場も建物は
大きい。……それは地方交付税によるものかもしれないが。

そして鉄道。

交通要所だったことを伺わせるものが残っている。いや、いた。
もうそれらは、ない。

町役場は平成の大改革と言われた市区町村合併で統廃合され、
見てくれだけ大きい、空っぽの置物と化した。

橋はこの町から、むしろ出ていく者の役に立った。


鉄道は朽ち果て、意味を失った。望郷。それ以外のものを全て。


皮肉なものだ。

だが、人は食べなければ生きてゆけない。それは千歳の言ったように
業をを背負いながら生きてゆく人間の姿だ。出ていこうと、滅びようと、
ここに残ろうと、なんであろうと……。
食べるために故郷を捨てたとしても、やむを得ない。

いい加減、高浩も空腹を感じていた。

そんな時だから思うのだ。
人口3千人に満たない町。だが、そこには想いが残っている。

常葉町は存在する。
そこにその名前がある限り存在する。


「へいらっしゃい!!」

ロマンティックな矛盾になんとなく心を揺らがせながら、適当な
店ののれんをくぐった。

町の中を結構歩いてみたが、飲食店は少なかった。田舎なら
こんなものかもしれないが、高浩はそんなに田舎暮らしをした事が
ないのでわからない。

ともかく、見つけた店に入ってみた。
威勢の良いかけ声がかかる。

木造の店内には油の臭い。機械油ではなく獣油の臭いだ。それが
漂っている。壁板も床板も簡単な張り付け内装でふんだんに汚れて
いるが、掃除が行き届いてないということではない。
調味料の焦げた臭いも感じる。後は換気扇が回る雑音。
TVでは高校野球が放送されていた。別に興味はない。

店の入り口をよく見なかったがラーメン屋のようだ。長いカウンターを持つ
長方形の店内。カウンターに10ほどのイスがあり、ファミリー向けの
テーブル席が三つ。時刻は昼の1時半だが、客は誰もいない。

「水は適当に注いでくれや」

水を冷やす機械。たくさん詰まれたグラス。
青い機械の『PUSH』と書いてあるグラス型に湾曲した、大きなトリガーの
ような部分にグラスを押し当てて奥の方へ押すと、水が落ちてきた。
バネで作動する随分古いウォータークーラーだ。

水を持ち、カウンターに座る。
メニュー表は店の一番奥。大きなガスストーブの上にTVがあり、その
右上の壁に張り付けられていた。三味ラーメン550円、チャーシュー
メン700円、チャーハン、餃子……

ごく普通の価格。白い化粧板張りのカウンターテーブルも普通。
水を一口飲んで、高浩は注文を告げた。

「塩ラーメン」
「塩だけ?」

カウンター向こうの店員……白い調理服を着た髭面のおっさんに
尋ねられる。え? と逆に聞き返してから、高浩は頷いた。

「うん。塩ラーメン……だけ」
「おう。そうか」

親父はぐらぐら煮立つでかい寸胴鍋に生ラーメンを放り込んだ。

「(なんだよ)」

思わず、心中で毒づく。何か注文しないことが悪いのだろうか。

ガララッ

ラーメン一個で何が悪いんだと不機嫌になっているところで、店に
客が入ってきた。
流行ってない店だとは思うが、客が全く来ないわけでもないらしい。

少しだけ安心し、客を一瞬確認して。
また水を口に……。

「!」

もう一度、高浩は見た。その客は、女の子だった。

「おーう。いらっしゃいトモちゃん」
「ゲンさん毎度。儲かってる?」
「まぁまぁよ」

入ってきた女の子は、白衣を着ていた。調理服とは違うし、看護服とも
違う。医者の白衣に似ているが。なにしろ下から覗くのは、
ちょっとスカートを短くした今風な学制服だから。
そういえば、みずほや万里って子と同じ制服だ。リボンの色が違うが。

理科室から出てきた学生? か? 

結構な美人で、ちょっとクセっぽい肩までの髪を頭の横で縛り上げて
いる。ゴムの色を見ると、飾っているというより面倒くさくてそうしている
様子だ。スッとした顔立ちは、どことなく芯の強さを感じる。みずほとは
また違う、ちょっと男性的な雰囲気の。

「今日は何にするよ? トモちゃん」
「えっとねー、1/4Wカーボン抵抗100個、0.1μFパスコン10個、
RE200Bセンサー5個、三端子レギュ18V1A10個、
PIC16の873を2個、バリキャップ東芝102を5個、
丸の圧着端子20個、えーと……あとは……」

コップに口を付けたまま水を飲むのを忘れ、高浩は彼女の口元を
呆然と見ていた。

親父もメモしつつ、平然と会話している。

「PINじゃなくて?」
「PINあるからいいー。あと、ワニさんクリップなくなったから50個と
ビニ線5メートルね」
「色は?」
「んー女の子だから赤」

にっこりと満足そうに笑い、女はカウンター席に座った。
高浩の隣にわざわざ。

「ゲンさん、あと、みそチャーシューメン」
「あいよ」

何事もなかったかのようにラーメンを注文する。

一体何なんだ。

何なんだこの店は!

「……何で電子部品」
「え?」

思わず呟いた一言に、隣の女は驚いたようだった。
驚いたのはこっちだったのに。

「何でって、なに? そういや見たことないけど、キミはもしかして
常葉町の人じゃない?」
「ああ……」
「あーそう。そりゃ知らなくても当然か。でもこのお店の看板も見ずに
入ったんだ?」
「看板?」

彼女がそう言うので、高浩は立ち上がり店の外へと出てみた。
考えごとをしながら歩いていたので、店名はあまり気にしていなかった。

そのせいで見落としていた。それを。

「で……」

目で追い、そして絶句する。

「電子部品とワークショップの店、DIYならラーメン源」

何の悪夢だ。

ガラッ

「おい!! この店おかしいぞ!!」

店に飛び込み、高浩は思いっきり叫んだ。どう考えてもその店名は
理不尽だ。

「別になんもおかしくないでしょ。書いてあるとおり」
「確かに書いてあるとおりだがちょっと待てお前食ってるの
塩ラーメンだろ! なんで食ってるんだよ!! お前さっき
ミソチャーシューって言ってたじゃねぇか!!」
「え? ずるずる……ああ、私としたことがちょっと間違えちゃった」
「どうしたら塩ラーメンとミソチャーシューメンを見間違えるんだよ!!」
「科学的に考えれば、両者を構成する材料そのものに特異な点は
少ないわけだし、同一の物として見間違えるのは科学的に確かね」
「んなわけあるか!! そんなもん許したら信号機の赤と青の区別も
なくなっちまうだろうが!!」
「ああ、知ってる? 最近の信号機はLEDなんだよね。ずず」
「ンなこといいから食うのをやめろ」

女は食うのをやめた。というか、チャーシューメンが出来上がって出て
きたので、今度はそっちへと箸を伸ばしたのだ。

無茶苦茶である。

「塩ラーメン半分ぐらいになってるじゃねーかよ……」
「替え玉すれば?」
「するかボケ。金払え」
「科学的に拒否」

頑なにこちらを無視し、食事を強行しようとする女。
それにしても、この町にはどうしてこんな変な奴ばかりなのか、
心の底から不思議に思う。

高浩は諦め、塩ラーメンの残りを食べ始めた。というところで隣から、
チャーシューが飛んでくる。

「あげるわ。私、肉はあんまり好きじゃないし」
「ならなんでチャーシューメン頼んだんだ」
「キミにあげて、塩ラーメン半分もらいたかったから」
「???」

疑問符でいっぱいになるようなことを、平然と言ってきた。

「なんだそれ。理屈に合わなくないか」
「……なんで? ずるずる」
「一つ目、なぜ俺より後に入ってきたお前が俺の注文を塩ラーメンだと
断定できたか?
二つ目、なぜ俺が交換に応じると思ったか?
三つ目、肉が嫌いならなぜ、塩ラーメンのチャーシューを食ったのか?
四つ目、お前は誰なんだ?」

質問には笑顔が返ってきた。そして彼女は麺をすすりもぐもぐしながら
すぐに答えた。

「一つ目の質問の答えは、私はこのお店の常連だからゲンさんの動きを
見れば何を作ってるかくらいはすぐわかる。二つ目の質問の答えは、
応じなくても応じても、実際に食べたでしょ? 結果から選択へ遡る意味は
どこにもない。時間軸を無視した質問に答えても無意味。三つ目の
答えは、1枚しかないチャーシューを見るとなんか食べられるけど、
5枚だとなんか食欲が無くなる。四つ目は、質問の意味が分からない」

高浩もラーメンをすすりながら、面倒くさい女だなと内心で呟いた。

「人のラーメン半分食っておいて、名前も言わないのか」
「何よ。名前が知りたかったならそう言えばいいのに。私は誰かなんて
言われても、答えられるわけないじゃない」

普通は答えられると思うが。

「私は今世紀宇宙最高の頭脳と技術を持った、超天才超科学超人類、
河井智恋。17歳。ちなみにどう控えめに言っても天才だから。よろしく」
「……有沢高浩だ。16。よろしく……」

殆ど力を入れず握手をする。逆に智恋は思いっきりがっしと握りしめてきた。

もう普通に店を出たくて仕方ない状況だが、食べ終わってないので
我慢して食べる。しかもこんなのが年上という状況に、なんとなく猛烈な
怒りを感じた。いや、怒りはまるで水のように散っていく。むしろ虚しさが
ふさわしい感情だった。

「キミはなかなか見所があるわ。キミのその好奇と探求心溢れる
眼差しから科学者魂を感じた」

いきなり智恋はそんなことを言った。高浩は、箸を床に落とした。

「……」

無言で、箸箱から箸をもう一膳取り出す。
そして食べる。ぬるくなってきた塩ラーメンを。

「キミ、私の助手になってみようか。うん。そう。光栄に思っていいわ。
多分歴史書に二人の名が残るから」

犯罪史に名が残るの間違いじゃないのか。

「私のことをハカセと呼ぶことを特別に許可するから。
博士じゃないからね。ハカセ。カタカナっぽく発音するのがポイント
なの。チャーシューもいっこあげる」
「……」

スープの上に載せられたチャーシューを無言で食べる高浩。
何に納得しているのかまるでわからないが拳を握りしめ、力強く頷く智恋。

両者はそれこそペルティエ素子の如く、一方は冷め、一方は燃えていた。
その熱の強さは誰も寄せ付けない。誰も寄りつかない。

「我が超科学研究部のスタッフは私、河井智恋とサポートロボのカンカン、
サポート猫の車にゃん吉、サポートお母さんとかお父さんとか優秀な
人ばかりだから! あ、既に筆頭部員も二人いる。同い年だけど先輩には
ちゃんと挨拶してね」
「……」

高浩は無言で立ち上がり、千円をテーブルに置いた。

「あれ? 有沢研究員、どこに行くの?」
「……ごっそさん。釣りはとっといてくれ……」
「何よ。ちょっと待ちなさい」
「放せ。俺を妙なことに巻き込まないでくれ」
「放さないわ」
「なんでだ!?」

智恋は高浩の左手をしっかと握りしめ、大まじめな顔で。

「お金足りないでしょ。1250円よ」
「なんでチャーシューメンの代金が乗ってるんだよ!」
「チャーシューあげたじゃない」
「その前の過程を平然と無視するな!」
「わかったわよ。立て替えておくから」
「全然わかってねぇ!」

智恋は手を離した。その手を、口元に当てて厨房の方へ言い放つ。

「ゲンさーん、ごめんねー。この人ツケだって」
「ああああああああああっ!!! 払えばいいんだろ払えば!!」

300円を智恋に叩きつけ、高浩は足早に店を出た。

「ちょ、ちょっと待ってってば」

店の扉を乱暴に閉め、特に目的も方向も考えず大股で歩く。
とにかく足早に。早々に立ち去ろうとする。

外はのどかな陽気だ。
乾いたサンシャワーが心地よい。

「待ってってばー! 有沢研究員ー!」
「研究員呼ぶな!!」

後ろから、走って追いかけてくる足音と声が聞こえる。
肩をプルプル震わせて、たまらず振り返った。

「なんで追いかけてくるんだよ!! お前は!! って、
お前なんでドンブリもって出てきたっ!?」
「だって食べかけなのに出ていくから~」
「店の中でゆっくり食えよ!! 俺が決して見つからないぐらいここから
遠ざかるまで!!」
「チャーシュー欲しいの?」
「いらんわっ!!」

歩道の真ん中で立ちながら、ドンブリを持ち、ラーメンをすする白衣の
女に言い寄られる。これは呪いだ。多分絶望的にタチの悪い呪いだ。
ちゃんと墓参りしなかったからか。ご先祖の仕打ちがこんなに厳しいとは。
厳しすぎて普通に死にたくなる。高浩は心中で十字を切ったが、
残念ながら惜しくも仏教だ。

「わかった研究員。ラーメンおごってもらったし、研究員も何か大きな
悩みを持ってるようだから、お姉さんが相談に乗るわ。科学的に
解決してあげる!」
「つきまとわないで下さい。マジで」
「……ポストが不満?」
「違うから」

振り払いたくて、高浩は適当に歩いているのだが彼女はどこまでも
ついてきた。

気がつけば、向かう先はもう海。Railwayが見えてきている。

「研究員はどこに向かうつもりなのか。ハカセとしてその行き先を
確認したいのは当然のことだった。未知に飛び込む勇気を忘れずに
行け、ハカセ。負けるなハカセ」
「妙なモノローグで盛り上げようとするな」

常葉町の構造がどうなっているか、高浩もあまり理解していない。
それだけに知っているところをうろつけば自然と知っているところへ
戻ってしまう。

足を止めて、引き返そうとした。このまま行くとRailwayで誰かに
会ってしまう。そうなるともういろんな意味で終わる気がした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

<空想>

「あら、その声は高浩くん? 一緒にいるのは誰?」
「あ、ふたえさん。いや、この人はちょっと赤の他人で――」
「初めまして!! ワタシ、ハカセです! 超科学研究員の有沢君と
いつもお世話になってます! とても色々と隅々まで」
「あら、そうだったの。ごめんなさい高浩君。そうならそうと遠慮なく
言ってくれれば良かったのに……やっぱり私、高浩君にとって迷惑な
親族なのかな……」
「いやふたえさん何言ってるんですか。意味解らないですしそのバカは
完全に赤の他人です」
「有沢研究員はこれから私と共に死ぬまで超科学と共に生きるの。
今生の別れだけどこれは科学のためだから、ご家族の方には
有沢高浩は科学に身を殉じ、立派な最期を遂げましたとお伝え下さい」
「まぁ、それは残念だけど仕方ないわね。高浩くん、短い間だったけど
さようなら。元気で死んでね」
「なんでだ!?」


<空想終了>
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「(ああ、とても危険だ。Railwayに近づくと、こんな事が起こりうる)」

智恋は相変わらずラーメンのドンブリだけを持ったまま彼の後ろを
ついてきていた。Railwayまで数十メートルというところで高浩は
立ち止まり、振り返る。

「やっぱりこっちへ行こうかな」
「どして? その行動の変化は化学的に興味があるわ」

間髪入れずに智恋は尋ねてきた。
うっとうしいことこの上ない。

「いや、別に用があるわけじゃないから」
「ふーん。ところで有沢研究員は明らかに常葉の人じゃないけど、一体
どこに住んでるわけ?」
「それは……ええと」
「人はあてもなく歩いていると、自然と家の方に向かってしまう物だって
よく言われるけど」
「いや、そんなことは決してないから」
「もしかして」
「見なくていいから。ああ、そうだ。俺、実はUFOから落ちてここに
来たんだ」
「異星人解剖フィルムを検証したことがあるけど、どう見ても作り物
だったわ。異星人はいたとしても、地球にコンタクトできる確率は
天文学的に少ないと思うの。無数にある巨大隕石が地球には全然
落ちないのと同じようなものね。多分宝くじの1等に当たる確率より
低いんじゃないの? 『宇宙人がいる確率』は、宇宙人を一度は観測
しない限り、事実的には永遠に0%なんだから計算のしようがないけど」
「……」

超科学というのは宇宙人を認めてないらしい。難しいものだ。

智恋はにっこりと、コケティッシュな笑みを浮かべる。一言。

「で?」

その『で?』は、要するに尋ねている個人情報の類とかそういうものを
正直に公開しろという意味だろう。

言うまでもなく絶対に拒否だ。

そろそろ、いい加減この大人な子供を引き剥がし平穏を手に入れたいと
思い始めていたが、冷静にそう考えていたわけではなく、
近場に見えるガソリンスタンドでハイオクを買い、その辺にばらまいて火を
つけると脅せば逃げるだろうかと考えていた。

もしくは警察に飛び込めばいいのだろうか。こういうのはストーカーなのか。



その時だった。
急に何かが肩に乗ってきた感触。とても馴れた、その感触。

モモンガだった。背中の縦縞を見まごうはずがない。しばらく……朝から
行方が解らなくなっていた高浩のペットだった。

「とーら? お前今まで……どこに行ってたんだ?」


「あら、その声は高浩くん? 一緒にいるのは誰?」


先ほど空想で思った通りの台詞が聞こえてきた。
背後を振り返ると予想通りにそこには、眩しく邪気のない、大人の笑顔を
浮かべたふたえが立っていた。

服はもう着替えている。普段着に、お店のエプロンを着けた姿に。

最悪である。

「断固として赤の他人です」

一切の関係を否定する高浩。

しかしそんなことは関係なかった。
振り返り、おっ、と隣で声を上げる智恋。ピッと右手を挙げて、ふたえの
声に応えていた。もちろん見えないのだが。

「あれ? Railwayの藤ノ木さん。こんにちは」
「その声は智恋ちゃん? 珍しいわね。ご無沙汰よね」
「ですねー。アハハハ。科学の追究でちょっと忙しくて」
「智恋ちゃんは相変わらずね。頭が良くて、お父様もお母様も自慢の娘だと
仰ってたわ」
「いえいえそんなー。お父さんもお母さんも科学がよくわかんないだけで
私はまだまだ大科学者の域に達してませんし!」
「ぜひ今度、みずほちゃんにもお勉強教えてあげて」
「木桧研究員も今に超科学の素晴らしさに気づきます! 大丈夫です」

……。

予想した展開とは、どうも違っていた。
ただ、新たに理解できたことがある。

この町の住民は殆どが、互いに顔見知りだ。そうとしか思えない。
そして高浩がどういう風に行動しようとも、どういう風に考えようとも
この町ではあまり意味のないことなのかもしれない。

「高浩くんともさっそくお友達になってくれたのね。高浩くんは私の甥なの」
「おお、そうですかー。どーりで科学探求心に溢れる好青年だと
思いました!!」
「今日、歓迎会をするの。私はこれから買い出しよ。ごちそうを用意
するから、ぜひいらっしゃい」
「それは楽しみです! ハイ!」

色々隠し通していたことが全て暴露された。

非常にナチュラルな流れで、口を挟むタイミングなど全く、微塵も
存在しない。高浩は力が抜けたように、両膝をついた。

「良かったわね高浩くん。楽しい歓迎会になりそうよ。夕方ごろには
Railwayに戻ってね」
「どうしたの有沢研究員。動力が切れたように膝から落ちちゃって」
「……なんでもないです……もう何もかも……」

肩に乗ったとーらが、耳元でごそごそ動き回る。もしかしてこいつが
こちらを見つけたから、こんな事になったんじゃないかと。

「あー!! そういえば私、注文した部品とか受け取るの忘れちゃった。
ゲンさんの所に戻らなきゃ。そういうわけで藤ノ木さん、有沢研究員、
私は科学の事情で失礼するわ。また後ほど会いましょう」
「じゃあ私も、買い出しの途中だから行くわね。高浩くん、18時には
Railwayに戻って来てね」

二人とも、泣きそうな高浩の元から離れてゆく。
この町に来てから色々なことがあったが、二日目にしてなにか極めつけの
状況だ。

たったった、と走り去ってゆく智恋。
それとは対照的に、白い杖で道をちょんちょん突きながらゆっくり歩いて
いくふたえ。

「ふたえさん」

高浩は立ち上がり、ふたえを呼び止めた。

「?」

呼び止めて、何を言おうとしたか。
ふたえには解ったかもしれない。立ち止まり振り返った。表情は、
少なくともいつもと変わらないように見える。

話す勇気が萎んでゆくようだ。
ふたえの表情を見ていると、高浩はいつでも、心が萎縮するような
想いがした。恐れではなく。それは……

「俺、あ……だから……」

ふたえが、何もかもを覗いているような気がするからだった。

考えも。人生も。運命も。全て見た上で、そんなに優しく笑っているのでは
ないかと思った。

「俺……明日……か……」

その笑顔が、怖い。
彼女が口を開くのが見えた。身をすくませて、高浩は言葉を待った。

「高浩くんが考えたなら、その通りにして良いんだよ。誰も止めないし、
私が止めさせないから。そして……私のせいにして。全部」
「……」
「高浩くんは、何も苦しまないで。悔やまないで。高浩くんが辛かった
時に、私は何もしてあげられなかったから」

肩で、きぃ、と、とーらが鳴く。

高浩は手で、その背中を撫でた。ふたえから視線は逸らせない。
逸らせられるはずがない。

ふたえはうん、と頷いた。――誰の言葉に?

高浩の表情? とーらの声?

どちらも解るはずがないのに。

「だから今日だけでも、高浩くんのために美味しい料理を作ってあげたい」



じゃあ、行くね。

ふたえが言った言葉が遠く聞こえた、気がした。
別れの言葉も耳に入らなかった高浩が声を上げようとした、その時には
もう、ふたえは遠くにいた。

声をかければ呼び止められる。
走れば追いつける。


だが、高浩にはどちらも選ぶことが出来なかった。



ただ、見上げることしかできない。

正午過ぎの青すぎる空を、見上げることしかできない――。




(9)終
(10)へ続く

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| 連続小説 Way to the BLUE | 22:47 | comments:2 | trackbacks(-) | TOP↑

COMMENT

智恋のキャラがいいですね。門司さんのシナリオ
だなあと思いました。

| saboten | 2007/09/16 19:48 | URL | ≫ EDIT

早く編集してアップしてくれ!

と、桜庭さんが「森田さんにプレッシャーかけろ」とおっしゃてました。
ラジオ、どんなぶっ飛んだものか期待してます。

小説と関係ないコメントですいません。

| KEI | 2007/09/24 07:46 | URL |















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