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Way to the BLUE 13話

(13)



鳴り止まない電話を持て余すようなものだった。

Railwayの店内。テーブル席。そこに突っ伏すようにして
ただひたすら泣きじゃくっている娘に、かける言葉もないまま
高浩は。

頬杖をついて、思案していた。

別に思案の議題があるわけではない。結論を導きたいわけでも
ない。
ただ、止まない雨がないように。

風に凪があるように。

線路が永遠に続かないように。

涙も、永遠に流れ続けるわけではない。


高浩は、つい最近それを知った。
心の底から思い知った。

だから、これはただの時間つぶしだ。

自分が最後に泣いた日のことを思い浮かべるのは。



7月。

学校から、母親の入院する病院へ直接向かう。
父親が死んでから一週間。
悲しみと病で伏せる母親を、励ませる言葉を考えながら。

しかし、高浩を迎えたのは、母親の死だった。

母親が飛び降りた6階の窓から、景色を眺めて。

あの時は自分が失ったものを理解できなかった。
理解できるまで、何日を過ごしたか。

一月のうちに、両親の葬儀を二度行う。
それは辛いという感情を通り越して、もはや作業か仕事のように
感じていた。そうしなければならないというだけの事として。

2日後に母親の遺書を見た。
そこにはただただ、謝罪の言葉だけがあった。
何に対する謝罪なのか、理解できないまま。

そうか。大切な人を失うということは、こんなに辛い物なんだと
ようやく理解したときに。

初めて、涙がこぼれた。

それからは、失ったものをかき集めるだけの生活だった気がする。

今まで通りの暮らしを続ける、ということしかできない。
その中では涙は出なかった。
むしろ怒りのような感情すら覚えていた。

遺書には、初めて知ったことが書いてあった。
母親の故郷。母親の家族。父親の故郷。二人は幼なじみだった
こと。ふたえの存在。常葉町……。

自分亡き後は、ふたえに頼れと。

だから怒りを覚えたのかもしれない。

--ふざけるな。俺の故郷はここだ。他の生き方なんて知らない。
会ったこともない人のことをどう頼ればいいんだーー




ふたえは厨房で働いている。こんな田舎のボロい店でも、
客はそれなりにやってくる。
旅行雑誌にでも載っていたりするのだろうか。バックパッカーが
訪れたり、観光客らしき者がいたり、鉄道を趣味にしている者が
訪れたりする。

後で知ったが、インターネットでもこの店のことは書いてあった。
鉄道駅を改装して喫茶店にしたというのは、それなりに珍しい
ことのようで、好意的なホームページが多かった。

ふたえのことについても書かれていた。愛想が良く、美人な店主。
……そのままの評価だ。
何も否定しない。

ただ、疑問は感じる。

有沢ひとえの姉、藤ノ木ふたえ。
その人となりに、微かに感じる違和感があった。

別にふたえが悪いわけじゃない。それはいい加減気づいた。
一般的な周囲の評価も妥当だと思う。

しかし、彼女は本当に母の妹なのか?

他の友人の話だが、普通、姉妹というのは『表面上は違って見え
ても、根底には似た部分がある』という事が多いらしいが、
ふたえとひとえは、その根底が『似ていない』気がする。

どこをどう違うと言えるわけではない。むしろ表面的には似た
雰囲気を持ってる。性格は違うが、雰囲気的なものは。

だが、最も見えにくい根幹の部分は、大きく違うような気がする。

ロウ細工とプラスチック細工のよく似た人形のように、
姿も質も似ているが、その材質が違う……。

もちろん、そんなことを考えても仕方がないのだが。

ただ、今はその、万里という子が泣き止むまで高浩は時間を
使い続けなければならないというだけだ。

その結果、思い起こした過去は不快だった。
つくづく無意味なことをしてしまっている。

「あの……」

その無意味なことが、ひと段落したところで。
ようやく、彼女は口を開いてくれた。5分は待っていたと思う。

見れば、いつのまにかとーらが彼女の頭の上に乗っていた。
万里は振り払いもせず、そのまま呟く。

「すみません。なんか……」

まだ声が震えているが、絞り出すような健気さで彼女は言う。
謝罪の言葉を。

そしてその謝罪も、意味が分からない。

「……あ? ああ。いや、別に」

高浩はわからないまま、曖昧に答える。

とーらが頭の上に乗っているので、幾分か間抜けに見えるの
だが。

月方万里。泣きはらした赤い目を、今は高浩に向けている。
背は低く、小学生と言われても疑わないだろう。
いじくってない素直に伸びた髪。質素なブルーの、綿生地の服。
可愛らしいのだが、あまりに目立たない。

万里はきょろきょろと辺りを視線で見回した。誰かを捜している
ような仕草だが、その願いは叶わなかったようだ。
結局誰を捜したのかもわからないまま、また俯く。

そして、蚊の鳴くような小さい声で。

「すみません」

また、そう謝った。
さすがにそれには、高浩もイライラする。

「謝ってもらいたくてここにいるわけじゃないんだけどな」
「す……」

間違いなく、『すみません』と言おうとしただろう?

高浩が尋ねる前に、横槍が入った。見上げると、テーブルの
隣にはふたえが立っていた。トレーに二つのカップを載せて。

「機械が動くのに油が必要なように、おしゃべりをするのには
おいしい飲み物が必要なの。昔からそう決まってるの」

紅茶の香りがたくさん詰まったような飲み物が、テーブルに
置かれた。高浩と、もう一人の前に暖かな湯気が、ふわりと
立ち上がる。

「チャイを煎れたの。今日は雨だから」

言葉は美しいものだと思った。

万里の涙もこの雨も、一杯の甘く暖かい飲み物が溶き解して
くれる。白磁のカップを持ち、高浩は一口飲み込んだ。

柔らかな甘みと紅茶の風味が、厚く折り重なるように込められた
ホットドリンク。先ほどから厨房で作っていたのはこれだったらしい。

暖かい。高浩も、知らないうちに身体を冷やしていたらしい。
重たい体が軽くなったような気がした。

ふたえはトレイを胸の前に抱えて、厨房へと戻っていく。
その後ろ姿を少しだけ見つめてから、万里へと視線を戻した。
万里も同じように、チャイを口にしている。頬に赤みが差したような
気がした。

「もう一度言うけど、謝ってもらう事はないから。何か話せば、
気持ちが落ち着くかもしれない」
「……」
「俺も、ふたえさんに聞いて貰ったから」

もう一口。チャイを飲みながら、高浩は問いかけた。

「今日、みずほは?」
「……連絡……してない」

いつも影のようについて回っていた、仲良しの友人を思い出して。
そういえばRailwayにも顔を出していない。

「……ケンカしたんです。お母さんと……」

悴んだ心が融けたのか、万里はようやく話し始めてくれた。

「あの、ちょっとほのぼのしたお母さんと? なんで」
「……別に、大したことじゃないんです。いつものことで、口癖
みたいに言ってることで……」
「何を?」
「……」

答えようと口を開き、万里は視線を上げる。彼女の瞳は、えらく
綺麗に見えた。何だろう。薄いブラウンの、澄んだ瞳……。

いつもは伏せ気味でよく見えなかった。
琥珀のような光彩。

こんなに瞳が綺麗な人を、高浩は見たことがなかった。あまりにも
綺麗すぎる。吸い込まれそうな瞳というのはこういうのを言うのか。

「……凄く、嫌なことを言うから」

とーらは万里の頭の上で寝始めた。少しも反応しない万里に
飽きたのかもしれない。

高浩も、同じように飽きてきていた。話を聞くのはいいが、それで
どうなるとも思えない。だが、その一杯のチャイを飲み終えて
いないせいで、席を立てない。

客が入ってきた。2人のライダースーツの旅行者風の男女だ。
恨み言を言おうにも、ふたえは仕事している。高浩は諦めて
万里に問いかけた。

「いつも通りの言い争いの果てに、Railwayに駆け込んで号泣
するってのはおかしくないか」
「……すみません……」
「そのすみませんはもうわかったから」

二人の客は夫婦のようだ。
ふたえに話しかけている。常葉町の落ち着いた雰囲気を賞賛
するように。
ここまで何百キロを走ってきたこと。
見たものを。感じたものを。願ったものを。受け取ったものを。

ふたえに話しかける。
コーヒーと軽食を作りながら、ふたえは笑って聞いていた。

「……(あ……)」

高浩は、それで気づいた。今更に。

「……」

押し黙ってしまった万里を、そのまま穴が開くまで見つめたところで
何の意味もない。

だから万里に笑いかけた。
小さくため息をつくと同時に。

「親と話せる時間は、意外に短いって最近知ったんだよ」
「え?」

高浩が自ら話し始めたので、万里は顔を上げた。奇妙なものを
見るように。

その視線を見返しながら。

「今思えば、もっと話しておけば良かったって思うよ。世の中には
仲のいい夫婦もそうでないのもいるけど、だからといってそれが
永遠に続くものだと思いこんじゃダメだな。変わることもあるし、
変わらないこともあるし、こうして両親ともいなくなっちまうこと
だってあるんだから」

諭すわけではない。
ただ、先ほどと変わらない。無意味な事をしているだけだ。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




ざあざあと降り続く雨は、傘の表面で砕けて、次々と流れ落ちて
ゆく。

走りながら、木桧美砂は恨めしげに空を見上げた。
グレーに染まる重い空が、遠く遠く、海の彼方まで覆い尽くして
いた。

「やな天気……」

雨は嫌いだった。
雨の日になると、彼女はひどく悲しい過去をひとつ思い出す。

誰よりも身近にいた親代わりの人が、交通事故で亡くなった
ことを。


木桧美砂は十数年前に常葉町に来た。
過去を捨てる。それだけの理由で多くのものを捨て去り、
まるで漂泊するように常葉町に流れ着いた。

着いてすぐに産んだ子がみずほだ。ひどい難産で、美砂は
その時みずほと共に死にかけた。

何もかもを捨て去って、一人流浪したときから死ぬことも意識
していたから、美砂は天罰でも下ったんだろうと諦めていた。

だが、澤 絵理菜……月方絵理菜と藤ノ木ふたえが、そんな
状況の美砂を心配し病院へついてきていたのは美砂も覚えて
いる。
結果として美砂は助かったわけだが。


……澤絵理菜は、昔の友人に似ていた。

病弱で、わがままで、子供のような子だが、いつでもまっすぐに
前だけを見つめている。

どこか学生時代の親友と重なる部分がある。

美砂は、絵理菜、ふたえと交流を持ち始めた。常葉町に来てから、
一切誰とも接点を持たないようにしようと思っていたのに。


月方絵理菜の家に到着した。
両手に持っていた鍋を玄関フードの床に一度置いて、ドアを開ける。

「絵理菜ー。来たよー」


絵理菜は病気で、すぐに動けなくなってしまうからいつも心配だった。
結婚し、美砂が生んだ何ヶ月か後に、子供までは生んだものの
生まれたばかりの万里を育てられず、夫の月方浩一郎も悪戦苦闘
していたのを見かねて、美砂が世話をしていたことがある。

姉妹同然に育てた二人は、今は親友になった。

「絵理菜ー」

名を呼びながら、月方の家に入る。浜近くの平屋建て。外壁は
ひどくボロボロになっていた。トタン屋根の木造で、すきま風も
かなりひどい。年頃の女の子が住むのは、少し可哀想だが。

「また寝てるの? 絵理菜ー」

玄関を入って、すぐに台所。狭い家だ。両手に持っていた鍋を
ガスコンロに置いた。

そこで気づく。

テーブルの上になぜか、食事の跡がそのまま残っている。
トーストと目玉焼きが冷えきっていた。二人分。仕事の都合で
別居中の夫は帰っていないようだが。

健啖家の絵理菜が食事を残すのは考えられないし、しっかり
した万里が食事にラップもかけずに放置するのも考えられない。

「美砂ちゃん?」

甘ったるいような、ふんわりした声が聞こえた。
振り返ると、寝間着姿の絵理菜が立っている。

……立っている。

「絵理菜。一体どうしたのこれ」

指さして尋ねると、絵理菜は困った声になった。

「はゃーそれがねー……万里ちゃんが怒って出てっちゃった」

そもそも、絵理菜が立って歩いていることが珍しいことなので
何かがあったとは思ったが……。

「万里が出ていった? あの万里が怒って? 何かの間違いじゃ
ないの?」
「わかんない。おなかすいたなぁ。美砂ちゃん。なんかつくって」
「トーストと目玉焼きがあるでしょ」
「冷めてる」
「……」

……こんなことで怒りはしない。

絵理菜が年上であることがたまに信じられなくなるが、いい加減
35も過ぎて中年と言える歳である。絵理菜のこの精神年齢の
低さは、ある意味センセーショナルなものだが。

見た目も確かに幼く見えるが、いい加減そういう問題ではない。
お菓子のように甘い声で話しても不愉快になるだけだ。

ああ、だからそうじゃなくて。

怒らない。

「……ちょっと待ってなさいよ」
「ずっと待ってるよ」

ニコニコ笑いながら、絵理菜が頷く。

美砂は、台所のイスにかけてあったクリーム色のエプロンを
腰にだけ巻いた。

トーストと目玉焼きを皿からフライパンへ再度移した。

料理を作りながら、訊ねる。

「一体何をしたの。あの温厚な万里が怒るなんて」

絵理菜は、今度はいつも座っている安楽椅子に移動して
答えてきた。キッチンがよく見える向きになっている。

「わかんない。こーちゃんの話をしただけ」
「旦那さんの? ……一体何の話を」
「なんもだよ」
「……」

再度火を入れ直し黄身を固めた目玉焼きを、細かく切る。
塩・胡椒を振りかけて、台所にあったカラシと、マヨネーズを
からめたものを卵と混ぜる。

卵をトーストに挟んでつまようじで止めて、フライパンに並べる。

「その話に、何かあったから万里は怒ったんでしょ。なんもって
ことはないでしょ。思い出しなさい」
「そんなこといわれてもなー」

日頃はもっと陽気な絵理菜だが、万里がいなくてかなり落ち
込んでいるようだ。表情には出ないが、相当気にしてるのだろう。

「年頃の女の子だもん。喧嘩や家出ぐらい当たり前よ。でも原因が
わかりそうならどうにかしないと。非行に走るかもよ」

あの万里に限って、非行などありえないことだが。

フライパンに牛乳を少しひいて、砂糖を少し。つまようじで
サンドイッチ状態にしたパンの表面に、煮詰めた牛乳を染みさせて
ゆく。
両面まんべんなく染みたら完成だが。

「こーちゃんの話をしただけなの。何で怒ったのかよくわからんの」

椅子をギコギコ揺らしながら、絵理菜は首を振った。
フライパンから、柔らかくなったミルクサンドを皿に戻した。

それを両手に、またダイニングのテーブルへ戻る。

「ほら。これでどう。食べられる?」
「ありがとうー。美砂ちゃんの作った料理は何でもうまいよ」

新婚の旦那のような事を言う。いつもこんな調子だからいいが。

絵理菜が椅子から立ち上がり、テーブルの方へ寄ってきた。
美砂は絵理菜が座るのを待ってから、同じテーブルの真向かいへ
腰掛ける。

「何か気に障るようなこと言ったんじゃないの?」
「うーん。あ、これおいしいね」

ぱくぱく食べ始めた絵理菜に、はぁ、とため息をつく美砂。

「うちのみずほはあんなダメな子になっちゃったけど、万里は
まっすぐ素直な良い子になったんだからさぁ。変なこと言って
傷つけたりしたら、怒るよ」
「うむぁうむぁ」
「食ってから喋ってよ」
「むぐっ……あ、そだ」

何かを思い出したように、わかりやすく上を見上げた絵理菜。

「そだそだ。えっとね、浩樹くんの話」
「……浩樹? 有沢浩樹?」
「うん。昔の話」

バン!!

破裂音と共に、テーブルの食器が数センチ飛んだ。

ついでに、絵理菜もその音に驚いてサンドイッチを落としている。

だが、そんなことはどうでもよかった。
聞いた瞬間に美砂は立ち上がり、手のひらをテーブルに
叩きつけていた。

唖然とする絵理菜に、静かに。
訊ねる。

「あのことは……少なくとも、あの子に関係する事は一切……
誰にも……そう約束したわよね?」
「え? はゃ、ちがうちがう。その話じゃないよー」
「なら、何の話なのよ。あたしは、それに関わることは絶対言う
なって言ったわよね。たとえ誰ががどうであろうと」
「そのことは言ってない。だって約束だもん」
「そうよ」

美砂は深く頷いて、そして着席した。

「何も言うべきじゃない。あの子達には、誰かの都合によって
生き方を左右されるような……宿命とか、そういうものとは
関わらせない。自由に生きて、自由に死ぬ権利があるわ」
「絵理菜達には無くてもね」

ある意味では、明るい言葉だ。前向きですらある。
絵理菜には他意がないのだろうが、肯定されては美砂も少し
心が痛んだ。

そう。生きる自由も死ぬ自由もない。

誰にだってある権利が。『誰にもない』
途方もない矛盾だ。

そんな馬鹿な悩みを子供達が抱いてもしょうがない。
何も知らないまま生きて、何も知らないまま幸せな最期を
遂げさえすればそれでいいはずだ。

ふぅ。

美砂は、深くため息をついた。雨のせいかもしれない。
今日はよく、過去を思い出す。そのたびに戸惑い、
そのたびに雨を鬱陶しく思う。雨。嫌いだった雨。

「で、なんで怒ったのよ。万里は」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






「お母さんはいつも、本気だか冗談だかわからないことを
言うんです。でも、そういう風にいい加減なことを言うのは
止めてって、言っても聞いてくれないから」

万里は、重々しくというよりは、まるで恥ずかしそうに言葉を
紡ぎ始めた。
つくづく小さな少女だが、印象に違わず繊細なところもある
ようだ。女性というのは、そういうものだろうか。

「傷つきやすいのかな。女の子は」

高浩は思わずそんな、くだらないことを言ってしまったが。
万里は小さく笑った。
今日、初めて万里の笑顔を見た。

「高浩さんが子供だったら良かったって」
「……なんだ? それ」
「お母さん、言うんです」

今度は高浩の方が呆れる番だった。まぁ、そんな台詞は
どこにでも溢れているのだが。出来の悪い子供がいれば。

「君はとても勉強が出来るし、家事も出来るってみずほが
言っていたと思ったけど。それに、現にそんな風に母親に
嫌われる理由が飲み込めない」
「嫌われてるわけじゃないんです。でも、その、冗談混じりに
お父さんの事を悪く言うから。私も言われてるような気がして」
「お父さんの事が、好きなんだ?」
「はい。立派だと思います」

万里はまっすぐな瞳で、そう言い切った。

「いつも家に帰ってこないお父さん。仕事で遠くにいてばかりの
お父さん。あんまり思い出もないけど……でも、お父さんには
そうやって働く理由があるのに」
「働く理由?」

働く理由は、人によって様々だろうが
そんなに深く述懐するほどに確たる理由を掲げている人間など
多くはないだろう。

高浩は、空いたティーカップを少しだけずらし、両手を組んだ。

「聞きたいな。お父さんが働く理由を」


高浩にとって、それは知りたいことに繋がる。

そうだ、きっと自分は。
小さな存在でしかなかった父親の。自分だけの存在でしか
なかった母親の。

そういう人たちの、想いの一つを辿ろうとしているのかも
しれない。


(13)終

(14)へ続く
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