携帯ホームページ

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

Way to the BLUE 19話

(19)


人生には大切な三つの袋がありまして。
おふくろ、堪忍袋、ゴミ袋、池袋など。四つある気がするが、時代は
刻一刻と変化していくものです。

もう一つ、あえて付け加えるとするなら……。


健やかに晴れ渡った空の下、寺の境内で。
唖然と立ち尽くす二人の影だけが伸びてゆく。

緊張のあまり吐き気を催してきた。

「明日、暇だったら……この前のお礼に、デートしないか?」

ああ、エチケット袋をくれ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


空気の粒子のざらつきが、ざわっと肌を撫でるような。
そんな風が吹いていた。北海道の風は生きているような生々しさを
持っている気がする。

事の顛末はよくわからないものだった。

何かの借りをどうにか返すために、心当たりはないがそれをどうこうして、
最終的にはあの、物静かな修行僧、眉一つ動かさずに鹿を殺す女、
吉野千歳をデートに誘えというのだ。

さぁ、意味が解るだろうか。わからないだろう。

高浩も同じように、意味が解らない。

「……それでも、来なきゃならないから来たんだよ」

『高永寺』へと上がる長い長い階段を上がる。
小さな荷物を片手に。

頭の上には、何か日光の匂いがするとーらが乗っている。
妙に暖かいそれを気にせず。


階段を上がる。風がまるで駆け上がるように後押しする。
それでも気持ちは重い。重すぎた。


境内に到着すると、すぐに彼女を見つけることが出来る。
竹ぼうきをバサバサと動かして、石畳を掃除している千歳の
姿を。朱色の古風な法衣を纏い、まるで彼女だけが紅葉するように。

高浩が見つめていると、彼女も気づいたようだった。
ほうきを使う腕を止め、じっと見ている。

高浩を。

「こ、こんにちわ。高浩」
「あ、ああ。こんにちわ」

千歳は何か、見てはいけない物を見るような感じで視線をそらして
挨拶した。足元を見たり、山の方を見たりいろいろとせわしなく。

高浩も同じような物だったが。

「高浩、き、今日は良い天気だな」
「そうだな。きっとしばらくはいい天気だよ」
「そうか。ううん、しばらくって、いつまでだ!」
「いや、それは解らないけど……千歳さん。どうかした?」
「どうもしてない! べ、別にどうということはない」

高浩は挙動不審だが、千歳も同様に挙動不審だった。ある意味、
高浩より激しく。



さて、それでは時計の針を4時間戻そう。

彼女の心中を覗き見るために。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


吉野千歳は、朝早くに起きる。
そして山に入り、仕掛けた罠にかかる獲物を確認しに行った後は家に
戻り、彼女は冷水のシャワーを浴びる。

夏でも冷たい水道からこぼれる水滴が、千歳の透き通るような白い
肌に触れると、玉のようにはじけた。心静かに、ただ、ゆっくりと
水に打たれる。

夢想ではない。それは空虚である。まるで絹糸のように流れる水滴の
一つ一つまでを感じ取るような感覚は、空虚ですらある。

そういう心が、自分には必要だと信じていた。


これが平日であれば、身だしなみを整えてから制服に着替える。

今日も夏休みであるから、普段着であるスゥエットにエプロンを着けて
台所に立つ。家庭菜園から適当に採ってきたトマトやキュウリを
買ってきたキャベツと一緒に盛りつける。

タッパーに入っている自家製ドレッシングをスプーンでかき混ぜて。

吉野家ではなぜか、朝は洋食と決まっていた。母親もそうだった
らしい。食堂の娘だったという母親のことを、千歳は殆ど覚えていない。
しかし受け継がれていくものがある。
料理はその一つでもあった。

進化無き、これは停滞。
だが人は停滞の中にいるときが、最も心を落ち着かせることが出来る。
朝はそれで良いと思う。何も変わらなくていい。
いつもと同じような一日が始まる。


そのはずだった。大あくびをしながら、台所の脇を通って浴室へ、顔を
洗いに行く吉野洸清。父親が、声をかけてくるまでは。

「おう千歳」
「おはよう。父上」
「千歳」

スクランブルエッグを作っていた。振り返らずに、千歳は声だけで
応える。

「……なんだ?」
「お前の友人の、なんと言ったか」
「ん?」
「有沢っていうガキのことだ」
「ああ……どうかしたのか?」

  ジュウ……

卵の焼ける、優しい匂いが鼻腔をくすぐる。朝の柔らかな日差しを
頬に受け、わずかに微笑みながら千歳は上機嫌だった。

「なんだ。高浩のことがどうかしたのか?」

改めて聞き直すと、声が返ってくる。キッチンと繋がっているような
浴室で、父親は顔を洗っていた。

「どうも最近、あいつはRailwayの手伝いをしているようだな」
「ああ。そうらしい。よく働いているとふたえさんが褒めていた」
「それでだが。その高浩が、明日は仕事を休むって話を聞いてな」

は? と、千歳も返す。

「それが一体どうしたというのだ。別に彼にだって休日くらいは
あるだろう」

浴室から、バスタオルを首に掛けた父親が顔を出してきた。

「いや、それでちらっと、噂を聞いたもんでな」

スクランブルエッグを皿に載せて、サラダを盛りつけようとしている
千歳も、問い返す。

「一体どんな」
「その高浩が、どうも誰かをデートに誘うらしいと」

……

千歳の手は、菜箸を持ったまま動いてなかった。
サラダを載せようとしたままで。

「……ほ、ほぉ……そぉか」
「誰とだか、興味はないか?」

先ほどまでの笑顔と同じ……ように見えるが、ほんの少し口元を
歪めながら、皿への盛りつけを再開する。千歳はあっさりと言った。

「興味ないな」
「そうか。てっきりお前が一番興味を持つだろうと思っていたが」
「なぜそんな。不可解すぎる。彼が誰と、どんな交友を持とうと私に
何も関係ないだろう。むしろ、こちらでもそんなに仲の良い友人が
出来たことが良かったと思える」

早口に、千歳は言う。サラダのキャベツがまな板の上に少しこぼれたが、
千歳は拾ってぽいっと雑によけた。

「別に関係ない。ほら、父上。朝食だ。さっさと着替えろ」
「お、サンキュー。うーん、今日の朝食もいいもんだ」

洸清はわざとらしく言うと、居間の方へと皿を運ぶ。千歳は手をエプロン
で拭きながら、時計を見た。時計を見て、そして。

少し表情を曇らせる。時間のせいではない。朝の9時を指し示す短針に、
睨まれるような謂われはない。

洸清は、時計を睨み付けるような娘をちらと見て。全く真逆にニヤッと
笑みを浮かべた。

居間の座布団に、よっこらせと腰を下ろして。

「まぁ、噂なんだけどな。俺も話をよく聞いていたわけじゃねぇけど、
その有沢高浩がよく話している相手とだって言うんだよ。朝とか。で、
相手は相当に固い感じの女で、誘っても来てくれるかどうかわからないん
だとよ」

今度は食卓に運ぶ紅茶を用意する。温めたカップを、二つ並べて。

「そうなのか。高浩は良い奴だから、その女性は喜ぶべきだと思うん
だが」
「藤ノ木ふたえも同じような事を言っていたよ。よく知らんが。
その子は昔から、ぬいぐるみでもなんでも欲しい物は人に言わずに、
落書き帳にうさぎの絵を描いて我慢するような控えめな子だったってな」

  がしゃん

小指にカップを引っかけて、ステンレスホーローの台所に陶器のカップが
転がる大きな音が聞こえた。

「大丈夫か?」

父親が声をかけてくる。

「あ、ああ。大丈夫だ。お湯は入ってなかった」
「……お湯はいいんだが、割れてないのか?」
「あ、うん。割れてない」

千歳は平静を装いながら答える。
焦りを露わにする背中を見ながら、洸清は必死に笑いをこらえていた。

「そういえば、今日は藤ノ木さんに頼んでいた魚焼き機が届くんだった
かな。配達に来るんじゃねぇかな。有沢高浩」
「そ、そうか」
「聞いてみればいいんじゃないか。誰を誘うのか」
「きょ、キョーミがナいと言ったダろウぅ!! ごほっごほっ」

とても興味がないとは思えないほど、ひどく声を裏返らせて
千歳は返事した。

相変わらず居間からは背を向けたままで。

「まー、興味がないならいいけどな。興味がないなら」

千歳に聞こえるように、そう呟く。

後のことは、特に意味はない。とにかく食事に集中できなさそうな
千歳が、上の空で父親と会話するばかりであった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



それが4時間ほど前に起こった出来事である。

では、時を現在へと戻そう。


「そ、それは、あの、私とか」
「……千歳さん以外に、今、誰もいないと思うんだけど」

振り返る必要もない。ひっそりと静まりかえった境内には、今は
虫の声も遠い。

ぐらぐらと視界が揺れるような、煮沸感のようなものを覚えながら
千歳はたどたどしく答える。

「いやその、私は色々と、朝は仕掛けを見たり、水を浴びたりだな」
「それが終わった後、もし暇があれば」
「終わった後……そ、掃除をしてだな」
「掃除が終わった後でもいいんだけど……」
「……」

高浩も、強張った左手を握ったり、ほどいたりして落ち着かなかった。
だが別にこんなことは初めてではない。

初めてではないが、この空気。
何か変に緊張した空気が流れていた。

「考えておいてくれればいいから。じゃあ、俺は他に配達するところが
あるからさ。これで」
「あ、いや、ちょっと」

千歳の手に、四角い段ボール箱を押しつけて、高浩は背を向けようと
する。千歳が呼び止めようとしたせいで、それは中途半端だったが。

「ちょっと待ってくれ。高浩。私はその、あまりそういうことは、
してもらうような義理もないように思えるし、第一……」
「まぁそんなに気むずかしく考えないで。普段の借りを返すって
意味で」

借りとはいったい何の借りなのか。

「あ……ぅ……何を、返すって……?」
「まぁそういう事で、後で連絡してくれればいいから」
「あ、ちょっと待て。高浩!」
「じゃあ」

言葉少なく、高浩は逃げるようにして足早に歩き出した。

「高浩! ちょっと! こんな、困る……」

その言葉はもう届かないだろう。高浩の背中が、階段を下り始めて
見えなくなってから千歳は声に出したのだった。

「何なんだ……そんな、話……いきなりすぎる……」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ポテトチップスがパリッと砕ける音がした。

パソコンに向かいながら、コード書を片手にキーボードを叩く川井智恋。

「うーん……この制御は、前に上手く動かなかったんだよねぇ」

両手を動かしつつ、ひょい、ひょいと口にポテトチップスを運ぶ。

一階が自動車工場となっている川井智恋の家。

その三階に、智恋の私室がある。部屋の中は荒れ放題になっていて、
完全に足の踏み場もない。それは例えば、木桧みずほの部屋も同様の
状態ではあるが、みずほの部屋はある程度の意味を持った状態で散ら
かっていると言えなくもない。
だいたい、捜し物の類が出てこないということはないからだ。

「あーあれどこ行ったっけ。えーと、確かその山の中……ああ、面倒
臭い」

川井智恋の私室。そこには大小様々な電子部品が散乱しており、まるで
飛行機が墜落して爆発四散した後の残骸のようである。
抵抗やらコンデンサがその辺にぶちまけられており、カーペットの
目に詰まって同化してしまっているのだ。

「まぁいいや。新しく作っちゃおう。だって私天才だし」

足の踏み場もないどころではなく、普通歩けない。
智恋はその辺のがらくたを踏みながら部屋を出たり入ったりしている。

もちろん、その部屋に着替えを置いたり寝たりできるはずはなく、
智恋は未だに父親や母親の寝室と同じ部屋で寝ていた。

そんな状況下で、電話が鳴った。

 pipipipipipipipipi

「うぁー」

工場とは別になっている家の電話である。電話に出るしかない。
面倒臭そうに、これもゴミに埋まりそうなハンディ型の電話機を取り
上げた。

母親は二階にいるのだが、ゲームをやっているときは絶対に電話に
出てくれないのである。わざとやっているのではなく、夢中で気づか
ないらしい。

「ハローハロー。川井ですけど」

ポテトチップスを食べつつ、ちょっと古めのパソコンに入力もしつつ、
電話を肩と首に挟んで答える。

≪私、吉野千歳と申します。智恋さんはいらっしゃいますでしょうか≫
「ぬぁ!? 千歳!! 千歳が電話かけてきた!!」

思わずポテトチップが割れて床に落ちたが、そんなことはどうでもいい。
そのうち分解されて風化する。

どんな天変地異かと思う。吉野千歳が他人に家に電話をかけてきたという
事実は、もしかしたら学校の連絡網以外に初めてかもしれない。

噂では、『吉野千歳は電話のかけ方を知らない』とまで言われていたが。
どうやら嘘だったようだ。

≪突然電話して、失礼を詫びたい。ただ、少し困ったことがあって、
幼馴染みである智恋に助力を頼みたかったのだが≫

「はぁ。私があんたを手助け? まーできるとは思えないけど」

別に悪意があってそう言っているわけではなく、まるっきり住む世界から
違いすぎる智恋と千歳では、世間話の時点で噛み合わないのだ。

共通の話題とかそういう問題ではない。犬と猫で会話が成立しないのと
同様である。

≪いや、実際、私も相当混乱していて。とにかく話を聞いて欲しい≫

「いったい何があったのよ」

電話の向こうからは、確かにいつもより早口で話す千歳の声がある。
落ち着いていて、感情を表に出さない鉄面皮が。

≪とある男性から、『一対一で行う男女同伴での外出』をしないかと
誘いを受けた≫

「……」

智恋は動いていた両手を止めた。
一度、受話器を持ち替えて聞き直す。

「あんだって?」

≪『一対一で行う男女同伴での外出』をしないかと、ここで名前は
明かせないのだがある男性に請われた。私はとても困っている≫

「その、一対なんとかって……要するに、洋風に言うと『デート』って
こと?」

≪い、いや、そういったものではない! 多分そういう物とは決定的に
違う。色々、心理的なものとか説明するのは困難なんだが≫

「ああ、つまり気のない、大して格好も良くない男に誘われて困って
ると」

≪何を言ってるんだ。そんな事はない。しっかりした考えを持っていて
私はそこらの男よりずっと信頼しているし――≫

「……いや、ならいーんじゃないの。ノロけられても知らんけどさ」

≪よくない! それが良くないのだ。そもそも彼と会ってからまだ
一週間程度しか経っていない。それなのに『一対一で行う男女同伴での
外出』なんて、あまりにも性急すぎるというのだ!≫

「私はそんなの本気で興味ないしどうでもいいんだけど、世間では
恐ろしく普通なんじゃないかと思うけど」

≪普通!? こんな……ことが……普通なのか!?≫

「普通じゃないかなぁ」

≪で、では、私は受けた方がいいというのか?≫

「そんなことは知らん」

≪『一対一で行う男女同伴での外出』に着ていく服装は、制服でも
いいのだろうか?≫

「なんで学校夏休みなのに制服着ていくの。馬鹿なの?」

≪普段着はスゥエットか修練服か僧服しかない。一番今回の問題に
合ってそうなのが学校の制服なんだが、やはりこれではダメなのか?≫

「あー私も人のこと言えないけど。Tシャツか白衣しかないし。でも
さすがにそれじゃダメなんじゃない? よくわかんないけど」

≪……そうか。やはり……。いや、参考になった。すまない。
どうもありがとう≫

「どーいたしまして」

≪では≫

電話が切れた。

「……へぇ。まぁ、珍しい。科学で説明できないこともあるわ」

ぽいっと、電話機を後ろに放り投げる。
電話機の行方はがらくたに埋もれて、もうわからなくなった。
だが、困ることはない。電話機が鳴ったなら、大体見つかる。

川井智恋は呟いた。

「あの鉄面皮、随分嬉しそうじゃん」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



携帯電話が鳴る。

何度か。何度目か。着信メロディの中間あたりで、携帯電話を取るため
立ち上がった。

ベッドの上に放り出されている携帯電話が、ブルブル震えている。


木桧みずほは、電話に出る。
見たことがない電話番号だった。

「はーい。もしもし」

電話を持ったまま、テレビの前に戻った。動きやすいジーンズとカット
シャツの適当な格好である。まだ女の子らしくはあるが、これは母親が
着る物にこだわりがないみずほを厳しくいさめているからだった。

≪吉野千歳と申しますが、木桧みずほさんの携帯電話でしょうか≫

「って、え? ……吉野先輩?」

≪吉野千歳です。木桧さんですか≫

「いや木桧さんですかって、これ、わたしの電話だけど」

≪そう。いや、電話番号をあの、月方万里という子に聞いたので。突然
申し訳ない≫

「全然大丈夫ですけど。どうかしたんですか」

みずほは、あまりに珍しい電話に驚きもしたが、その後すぐにプレステの
コントローラーを手にとって、ゲームを再開した。
シミュレーションRPGだから手を離しても問題がなかったのが幸いだ。

≪尋ねたい。木桧さんは比較的交友関係も広くてこういう話には良い
解答が出来るかもしれないと思ったのだが≫

「へ? わたし、思いっきりひきこもりですけど」

≪……いや、その、ゲームとかでもあるらしいから。詳しいと思ってな≫

「ゲームの話? あの、なんかよくわかんないんですけど」

≪とある男性から、『一対一で行う男女同伴での外出』をしないかと
誘いを受けた≫

「……」

みずほは、実行中のゲームの入力ウインドウを出したまま、硬直する。
そして、尋ねた。

「何て言いました? 吉野先輩」

≪『一対一で行う男女同伴での外出』をしないかと、ここで名前は
明かせないのだがある男性に請われた。『一対一で行う男女同伴での
外出』は、私は一度も経験したこともないしどういう物かも知らんのだ≫

「その、なんか妙に長い一対なんとかって……要するに洋風に言うと
『デート』ってことですか?」

≪い、いや、だからそういうものではない。皆そういうが、違うのだ≫

「違うんですか。てか、みんなって誰」

≪いや……そういう、デートとか言うと、何か本格的になってくるでは
ないか≫

「言ってることがなんかよくわかんないんですけど」

≪すまん。聞きたいことは、主に服装についてだ。これまでに知り合い
何人かに電話をしたところ、実に様々な意見を聞くことが出来た。
それでこんなに落ち着いて電話をかけていられるんだが≫

「(ちっとも落ち着いてはいないと思うんだけど)」

≪私がまともな洋服を持っていないため、服装が問題だった。
相談の結果、私は当日、髪型は左右にしっぽを作り大きめのリボンを
付けて、着ていく服装はなるべくフリルの多めな黄色の花柄ワンピースが
似合うのではないかという話でまとまった≫

「ぶっ!?」

思わず吸いかけた息を吹き出してしまい、みずほは唐突に呼吸困難に
陥った。

≪ど、どうした。何か変なことを言ったか?≫

「そ、想像してしまって……ゴホッ、お、恐ろしい気が……」

≪もしや、この格好は市井の交友にそぐわないのだろうか≫

「そぐわないっちゅうか……いったいどこの誰がそんな事を……。しかも
それで納得しちゃうって。いや、もし先輩がそれで納得してるんなら
いいんですけど別に」

≪いや、多少の違和感はあったんだが……≫

多少て。

≪もうどうしていいのか。やはり学校の制服で行った方がいいんじゃ
ないだろうか。変な格好をして、笑われるのは構わない。私はちょっと
世間とズレているとよく言われるから≫

「いや、そんなこと無いと思いますよ」

一応そう言ってみるが、確かに強烈にズレているとは思う。

≪だが、『一対一で行う男女同伴での外出』に誘ってくれた男性に
恥をかかせるような真似をしてはいけないと思うのだ。私が不手際を
してしまう可能性は高い。いっそ断ろうかとも思うのだが……≫

「うーん。まぁ、まるっきり男性関係に縁がなかった……っていうか
そもそも先輩を相手できるような気合い入った人が常葉町にいなかった
から、こんなレアケースは勿体ないと思いますよねー」

≪やはりそうなのだろうか……≫

「勿体ないと思いますよー。誰だか知りませんけど、勇気ある男ですね」

≪……≫

まぁこのままだと、その男は吉野千歳の、恐らく人生史上最も
恥ずかしい格好を見て軽く悶絶するだろうが。

ああ、見たい。

とても見たい。でも、さすがに……。

「まぁとにかく、服って言っても言葉で説明するの難しそうだし……。
そうだ。今からお母さんに頼んで、服を選びに行くとかどうです?」

≪……え? そんな、こと……≫

「いいと思いますよ。うちのお母さん、子供の服とか選ぶの好きだし。
自分が着る服を選ぶより楽しそうだし。ちょっとお母さんに聞いて
みますか?」

≪い、いや、でも、私はまだ行くと返事したわけではないんだ≫

「え? 行かないんですか?じゃあ、なんで電話してきたんですか?」

≪……あ、その……まぁ、行く……行ってもいい、とは≫

「ですよねー。じゃあ、お母さんに相談してみるんで。電話かけ直し
ますからちょっと待っててください。先輩みたいな綺麗な人の服を
選べるんならお母さん喜ぶぞー」

≪あの……木桧さん。でも、私は……木桧さん?≫


木桧みずほは、携帯電話の通話を切った。
そして、思わぬ事にワクワクしながら自室を出る。

何か久しぶりに、ゲーム以外でこんなに楽しい事が起こった。

これはもう、みんなで楽しむしかない。

「お母さーん! ちょっと、車出してよ! 吉野さんのお寺の子が、
お母さんに服を選んで欲しいんだって! ……違う違う!
デートデート! デートするんだって! 私じゃなくて!」

階段から下に呼びかける。



色々片付いたら、Railwayにいるふたえと、そこで奴隷のように労働を
しているボンクラにも教えてやろう。

「にひひ」

特にあの男が、相当にガッカリするであろう事は目に見えていた。
何だか最近仲が良さ気な感じだったし。


世の中ってのは、そうそう上手く回らない物だと思い知ることだろう!





(19)終

(20)へ続く
スポンサーサイト

| 連続小説 Way to the BLUE | 23:42 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

COMMENT















非公開コメント

PREV | PAGE-SELECT | NEXT