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クリスマスイブ特別小説

メリークリスマス!
今年もやってきましたクリスマス!
そして今年は久々に、クリスマスをテーマに書き下ろしの作品を
書いてみました!

2006年クリスマス小説

意外と評判が良かったあの2006年クリスマス小説の続編になります。
未読の方は2006年版からどうぞ!

まぁ2年前のお話なので、一度読んだ方もぜひ2006年版を
読み返してからにしていただけたらなぁと思います。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


【クリスマス急病 ――そして、運命的でもあり、絶望的でも
ある俺に起こった迷惑で残虐ですらある奇跡と呼べる何か――】



今年の年末は、天候が不安定だった。
やけに暖かくなったり、やたらと寒くなったり。

世間はクリスマスムード一色に染まっていた。
どこを向いても赤、赤、緑、赤、赤、縞。
同じ縞ならしましまぱんつのほうがよほどいい。
何しろアレには夢がたくさん詰まっている。
サンタクロースもしましまぱんつは好きだろうか。いや、
きっと好きなはずだ。(断定)

誰もが夢を抱き、夢に溺れ、夢に溺死する。
12月。そしてクリスマスというのはそういう日だった。

今日は肌寒い。ちらちらと雪まで降っている。
それをベッドから眺めながら、俺は完全に悟っていた。

体温、39度2分。

今の気分、最悪。

脳内ではちかちかする光の中で、森繁久弥が霊界から
こちらへおいでと手招きしている。

奴は不死だったはずだったが……。いつの間に丹波哲郎の元に
馳せ参じていたんだ。
いや、待て。そんなことは関係ない。森繁が不死でも、
しまぱんが最高でも関係ない。

これは下手をすれば死に至る病。
略して言うとデッド病気。

つまり風邪とかインフルエンザだ。

俺は服を脱ぎ始めた森繁の幻影を振り切って起きあがる。
このままではコミケに……いや、そういう事ではなく、
楽しいことを何も味わうことのないまま、死ぬ。

それだけは嫌だった。そうなりたくはなかった。

だから俺は、家から最も近い病院へと向かった……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


病院は、いやに空いていた。

年末の病院など恐ろしい混雑で、数時間は待たされるだろうと
覚悟を決めてきた俺だったが、拍子抜けすることになる。
まぁ、もちろん、数時間も待っていたら結果的に拍子どころか
魂が抜けることは想像に難くないのだが。

@看護婦
「診察室にお入り下さい」

@俺
「あ、どうも」

看護婦に扉を開けられ、診察室1番と書かれた部屋に入る。

中に入ると、まぁ一般的すぎる診察室。ベッドのような診察台。
丸い椅子。白いカーテン。白衣を着た女医。

女医……?

珍しく思って見つめている。その女医はカルテに視線を落とし
こちらを見ていなかったが、やがて顔を上げた。

@女医
「はい。それではえーと」

@俺
「……」

@女医
「切りましょう」

@俺
「ちょっと」

@女医
「はい」

@俺
「いきなり何言ってるんですか。って……あれ? えっと、
どこかでお会いしたことがあるような……何か遠い昔にこんな
感じのやり取りがあったような」

@女医
「……」

@俺
「ちょっと顔をよく見せて貰えませんか」

@女医
「……」

@俺
「いや、後ろ向かないで顔見せて貰えますか」

@女医
「いやぁ、あまり見せて惚れられても困るかなって思って」

@俺
「その喋り方!! その口調!! あんた絶対あの時の、2年前
のクリスマスの時に会った床屋だ! あのパーマをやけに勧めて
くる店員だ!」

@女医
「ひ、人違いですよ」

@俺
「出身地は?」

@女医
「群馬県甘楽郡南牧村です」

@俺
「お前だろ!! 絶対お前だ!! 特産品は!!」

@女医
「炭とか……はっ、しまった! これは罠ですか!」

@俺
「あんた、一体なんでこんな所に! なんでそんな格好を!」

@女医
「し、仕方ないですね。確かに私は2年前まで床屋をやってました。
しかし今は、多くの人命を救い、健康の大切さを説き、外車を
乗り回し、ステーキを食いまくるすごい医者になったんです」

@俺
「最後の方は全くもってひどいが……いやそれ以前に、ちょっと
待て」

@女医
「なんでしょうか」

@俺
「いつからこの国は2年で床屋が医者になれる国になった」

@女医
「昭和初期から?」

@俺
「完全に違う!! てか無理!! 無理だろ!!」

@女医
「なんてことを言うんですか。床屋を辞めてはや二年。来る日も
来る日も勉強に精を出し、やっと手に入れた医師免許……」

@俺
「手に入るかボケ」

@女医
「わー。二年ぶりに会ったらめっきりサディストっぽくなりまし
たね。その片鱗は薄々感じてましたけど」

@俺
「一体どういう事なんだ」

@女医
「えっとですね、要するに、ほらあれですよ」

@俺
「何がアレだ」

@女医
「私、お客さんの上着のポケットまさぐる癖があったじゃない
ですか」

@俺
「いやそれは癖とかじゃなくて完全に窃盗だから」

@女医
「その結果、知らず知らずのうちに医師の免許証が手元に」

@俺
「おおい!?」

@女医
「あはは、じょーだんですよじょーだん」

@俺
「なんだ冗談か」

@女医
「とりあえず診察始めますか」

@俺
「待て」

@女医
「なんですか。早く切開しないと手遅れになるかもしれませんよ」

@俺
「とてつもなく重要なことを無視して進もうとするな」

@女医
「男って面倒臭いですよね。小さな事でウジウジしちゃって」

@俺
「小さくねーから」

@女医
「そんなんじゃ、お日様に笑われちゃうゾっ♪」

@俺
「うわー久しぶりだなーこの殺意」

@女医
「まぁまぁ。ここで会ったのも何かの縁。ここは一つ、この
私に任せてくれませんか。さっきからドブネズミみたいな顔色も
きっと良くなりますよ」

@俺
「……はぁ、はぁ……そうだ。言われて思い出した……体調が
最悪に悪いんだ。風邪だと思うんだけど……」

@女医
「あらあら。……えーと、どれどれ。うん。おでこに手を当てて
みましたけど、大体30℃~40℃ってところですね。平熱です」

@俺
「ちゃんと計れよ」

@女医
「えーめんどくさい」

@俺
「いや、そんなアバウトな計測で何をどうするんだよ」

@女医
「じゃあ、これ。この水銀体温計を、口にくわえて計ってください」

@俺
「…………」

@女医
「……」

@俺
「……? ……」

@女医
「……」

@俺
「………………あのさ、ちょっと」

@女医
「体温計ってるときに喋ったらダメですよ」

@俺
「いや、あの。この体温計、なんか変な味がするんだけど」

@女医
「……ああ。えっと、それは先ほどの患者さんが直腸体温を
測ったからだと思います。気にしないで下さい」

@俺
「全力で気にするわバカ野郎!! おえっ、おえぇぇ」

@女医
「大丈夫ですよ。ティッシュで拭きましたから」

@俺
「消毒は!?」

@女医
「…………」

@俺
「黙るなよ!!」

@女医
「あーはいはい。ええっと、39度8分ですか。これはもう完全に
内臓のいくつかが致命的な状況ですね」

@俺
「なんでだ! 熱だけだろ! 普通に風邪かなんかの治療をして
みるとかまずはその辺から入るだろ!」

@女医
「私、患部を開いて見られないような病気はあまり得意じゃなくて」

@俺
「内科って書いてあったけどこの病院」

@女医
「私、スーパードクターなんであんまり関係ないんですよ。大体、
医者に専門とかなくてもいいと思いません?」

@俺
「それ以前に医者じゃないだろお前。何語ってんだよ」

@女医
「わかりました。じゃあお腹切りましょう」

@俺
「話を聞け。俺は風邪だ」

@女医
「素人の生兵法ってのが一番危ないんですよ」

@俺
「お前が言うなよ」

@女医
「私が見た感じ、あなたは多分ガンです」

@俺
「あーそうかい。はいはい」

@女医
「どう考えても助かりません。切りましょう」

@俺
「助からないのに切るのかよ!!」

@女医
「みんなそう言って最初は驚きます。助からないのになぜ
切るのか。医師も自問自答します。そこに患者がいるからだ。
助からなくてもいい。せめて病魔に一矢報いるために」

@俺
「ああもうわけがわからなくなってきた……」

@女医
「大丈夫ですか」

@俺
「いや、本当に目眩がする」

@女医
「本当ですか。どうぞ気を楽にしてください。横になって」

@俺
「ああ。その右手に持っている注射器を置くまでは、絶対に
意識を失わないようにしようと思ってるけどな」

@女医
「ちっ」

@俺
「舌打ちしたか今」

@女医
「してませんよ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


@女医
「一体患者さんは何をどうしたいんですか。さっきから否定的な
意見ばっかりで、全然治療に協力してくれないじゃないですか」

@俺
「あのさ、俺別な病院に行くからもう結構だわ」

@女医
「ちょっと待ってよ」

@俺
「いや待たない」

@女医
「待ってってば」

@俺
「待たないって」

@女医
「好きなの!!」


@俺
「なんでだ!!!!」


@女医
「えへ、ちょっと好きになってみちゃった。めいわく?」

@俺
「最低限の前兆とか下積みとかぐらいはあるだろ!! この
タイミングじゃ単純に気持ち悪いだけだ馬鹿たれ!!」

@女医
「クリスマスイブに会いに来てくれるなんて。ロマンチック……
星が落ちそうな夜……二人きりの診察室……」

@俺
「昼だ」

@女医
「二人はそこで結ばれて、誓いの開腹手術を」

@俺
「絶対嫌だ。っていうかもういい。とりあえず、どうせ任せても
ロクな事にならないのは解っているし、俺からやってほしい事を
言うからその通りにやってくれ」

@女医
「えへへー考えなくて良いかららくちんー」

@俺
「ぶっ殺すぞマジで」

@女医
「冗談ですよ。で、女に奴隷のように指図することでちっぽけな
プライドを守ろうとする患者さん、私は何をすればいいですか?」

@俺
「まず、氷まくらを用意してくれ」

@女医
「わかりました。熱湯風呂ですね」

@俺
「違う。で、俺はこの診察台に横になる。で、なんか呼吸が苦し
いんでどこにでも売ってるメンソールの塗り薬を」

@女医
「鼻に詰め込むんですね」

@俺
「塗り薬だと言ってるだろうが」

@女医
「流行に乗ってみませんか?」

@俺
「流行ってねーし。胸に塗ってくれ」

@女医
「じゃあ私、更衣室行って塗ってきますね」

@俺
「お前が塗ってどうするんだよ」

@女医
「女医プレイ?」

@俺
「プレイしない。プレイしないから。絶対しないから」

@女医
「ダチョウ倶楽部っぽい前振りされちゃった」

@俺
「すんなっつってんだろうが!!」

@女医
「はいはい。冗談なのに本気で怒鳴らなくたって」

@俺
「今の俺が冗談の通じる状況に見えるんだったら、認識に
相当問題があると思うんだが」

@女医
「わかってますよ。で、この注射ですね」

@俺
「いや、そのさっきから思わせぶりに持ってる注射器の中身が
わからないから、絶対にいらない」

@女医
「そうですか。でも、これ打ったら体調良くなりますよ?」

@俺
「……」

@女医
「絶対良くなりますって。私の言うこと聞いておいたほうが
いいですよ」

@俺
「……本当に?」

@女医
「本当です」

@俺
「……誰でも効くの?」

@女医
「誰にでも速効です」

@俺
「そうなのか……」

@女医
「はい」

@俺
「……じゃあ、自分に打ってみろよ」

@女医
「私を殺す気ですか」

@俺
「ダメじゃねーか!! ううっ……もう本当にダメだ……」

@女医
「ああっ、大丈夫ですか。意識が朦朧としてるんじゃないですか」

@俺
「ああ……なんだか目が良く見えなくなってきた……」

@女医
「患者さんしっかりしてください。気を確かに保って」

@俺
「うぅ……」

@女医
「……」

@俺
「……」

@女医
「……」

@俺
「……なんで俺の上着の財布を抜こうとしてるんだ?」

@女医
「ちっ」

@俺
「舌打ちしたろ」

@女医
「してません」

@俺
「どんだけひどい女なんだよ。こんなに身体が弱ってるというのに」

@女医
「ライオンは群れからはぐれた弱い動物をまず狙うそうですよ」

@俺
「……で?」

@女医
「今のはちょっとした失言だったかもしれません。あまり気に
しないでください。身体に障りますから」

@俺
「いや、もう……なんかどうでも良くなってきた……冗談じゃなく
このままだともう意識を保ってられないかもしれない」

@女医
「大丈夫ですか」

@俺
「大丈夫じゃないって言ってるだろ……なんとかしてくれ……」

@女医
「怖い話をしましょうか」

@俺
「……いや、いらない……」

@女医
「昔々あるところに、車を道路で走っているおじいさんが水浸しの
タクシーに乗ったときに、シートが濡れていたそうです。きゃああ」

@俺
「意味が全くわからないし!!」

@女医
「心臓が止まるかと思いました」

@俺
「止まれば良かったのに……」

@女医
「吊り橋効果って知ってますか?」

@俺
「知らない。知っていても、それは今の状況には全く当てはまら
ないと断言する」

@女医
「もしかして、具合悪いんですか?」

@俺
「具合が悪くなかったらこんな病院に来るかよ」

@女医
「なんでこんな病院に来ちゃったんですか?」

@俺
「だからお前が言うなよ!」

@女医
「怒鳴ったりしたら余計ひどくなりますよ。どうせこの病院は
全く流行ってないし、ゆっくり休んでください」

@俺
「……そりゃ助かるが……流行ってないのか」

@女医
「もちろん。えへん」

@俺
「別に褒めてないんだが」

@女医
「昨日まで来ていた患者さんがひとり、またひとりと病院に来なく
なるんです。間違いなく治療成果が出ているということですよ」

@俺
「……俺はその話を、全く真逆に受け取っているが……」

@女医
「……」

@俺
「……」

@女医
「……退屈じゃないですか?」

@俺
「……」

@女医
「……ああ、そういえば」

@俺
「……」

@女医
「今日はクリスマス・イブですよね」

@俺
「……ああ」

@女医
「全国で恋人達が甘い夜を過ごすロマンチックな日ですよ」

@俺
「……そうなのかもな」

@女医
「私たちの出会いも、運命的っぽいですよね」

@俺
「運命ってのは本当に残酷だな……」

@女医
「2年前、お台場デートした時のこと覚えてますか?」

@俺
「ああ、俺の家のカギを盗んでお台場まで逃走した女を追いかけた
挙げ句、捕まえようとした俺が車にはねられて大怪我を負った
アレの事か……」

@女医
「素敵な夜でしたね」

@俺
「あの時薄れ行く意識の中で、俺に指を指して大爆笑していた
女の顔は生涯忘れないと固く誓ったよ……」

@女医
「あの時もこんな風に二人きりで過ごしましたよね」

@俺
「集中治療室でな……」

@女医
「二年経っても全然変わらない。寡黙な人のままですよね」

@俺
「意識が無かったわけだからな……」

@女医
「あの時、思ったんです」

@俺
「……何を」

@女医
「医者は、儲かるって」

@俺
「……」

@女医
「……」

@俺
「……」

@女医
「……」

@俺
「……」

@女医
「……あ、流れ星」

@俺
「昼だ」

@女医
「……」

@俺
「……」

@女医
「……」

@俺
「……」

@女医
「注射は」

@俺
「自分に打て」

@女医
「……」

@俺
「……」

@女医
「……」

@俺
「……」

@女医
「『患者の命は刻一刻と失われつつあった。まるで揺れる蝋燭の
炎のように儚く乏しいそれを、女医はただ見つめることしか
できなかった』」

@俺
「……勝手なモノローグ作るな」

@女医
「……」

@俺
「……」

@女医
「『助けるためには切るしかない。女医は頷いた。患者もその言
葉に納得し、手術承諾書にサインした……』」

@俺
「やめろっつってんだろうが」

@女医
「……」

@俺
「……」

@女医
「なんだか本当に具合が悪そうですね。大丈夫ですか?」

@俺
「今このタイミングでなければ、少しはその言葉を好意的に受け
止める事が出来たと思うんだが……」

@女医
「本当に具合悪かったんですね」

@俺
「39℃以上の熱があるのは確認しただろ……」

@女医
「あれはブラフかな、って」

@俺
「できるかンな事!! ごほっごほっ!!」

@女医
「ああ、無理しちゃダメですよ。ほら、うがい薬です。飲んで
ください」

@俺
「飲むかっ!!」

@女医
「ああ、大変。今、手のひらで温度を測ってみましたけど
30℃~40℃ぐらいの熱があるみたいです」

@俺
「ああそうだよ!! あるさ!! 何しろまだ死んでないからな!
ごほげへがほごほがはっ!!」

@女医
「今すぐお医者さんを呼ばないと!」

@俺
「いるのか!? 呼んでくれ! 頼む!」

@女医
「なーんちゃって。私しかいませんー」

@俺
「ああああああああああああああああああああああああ!!」

@女医
「へっへー騙されてやんのー」

@俺
「ああああああああああちっくしょおおおおおおおおおおお!
ごほがほごほがほっ!! うがああああああああああ!!」

@女医
「元気が出てきた感じですね!! やった!」

@俺
「出てねぇーー!! 絶望してるだけだ!! ……あ……」

@女医
「……?」

@俺
「……あう……」

@女医
「……」

@俺
「……」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


突然視界が暗くなり、全ての音が消失する。

横になったまま平衡感覚が狂い、まるでベッドから落ちたかのよ
うに悲鳴を上げた。

つもりだった。だが、まるで身体が言うことを聴かない。

俺は、完璧に気を失ったらしかった。

真っ暗な闇の中で。

@俺
「……あ、森繁久弥さん。こんにちは」

真っ白い雲の上で、森繁久弥さんが笑っている。
あの人は死んでしまったのだろうか。

いや、違う。そんなことは有り得ない。あの人は不死のはずだ。
つまり……。

@女医
「あっ」

@俺
「……」

窓の外に映る、青い空と白い雲。
森繁久弥の笑顔の残影。

そして、白い病室。ベッド。

……自分の傍らには、白衣の女がいた。

窓から差し込んでくる白い光は、朝陽のきらめきがある。それは
乱反射して、彼女の頬を照らす。信じられないといったように、
弛緩した頬を。

そして、その次に。ようやく感情が追いついたかのように、
口元を手で覆って。

信じられないというように、感極まった声で。

@女医
「うそ――効いていないなんて――」

@俺
「何がだ!!」

違和感の残る身体を起こして、俺は眩しい光を、手で遮った。


@俺
「一体どうなってるんだ。ここは……病室? 俺は生きているのか。
しかし森繁が……いや、そんなことはどうでもいい。まさか」

@女医
「ごめんなさい」

@俺
「いや、待て。とりあえず謝るのは待て。腹……腹は、良かった。
どうやら意味もなく切開手術をされた形跡はないな……」

@女医
「でも、謝らなきゃ」

@俺
「いやいやいや、謝る必要はない。ホントに。出来ることなら、
どんな臨床実験を行ったのかとかどんな薬物を投与したかとか
どんな機械を埋め込んだかとか絶対に言わないで欲しい。完全に
諦めるから。聴いて死にたくなるようなこと言われたら困るから!」

@女医
「でも……」

@俺
「でももだってもアンダンテもない!! いいんだもう永久に
黙っていてくれ!!」

@女医
「ホント? 嬉しい」

@俺
「いや……何も嬉しがる事もないんだが……」

@女医
「だって、許してくれるなんて思ってなかったから」

@俺
「ああ、頼むからそういう事言わないでくれ。ものっすっごい
不安になってきたから」

@女医
「すごい熱で、一週間も意識朦朧としてたの。その間の事も?」

@俺
「……そんな状況だったのか?」

@女医
「ええ。うわごとのように、結婚したい、結婚したいって」

@俺
「……」

@女医
「……」

@俺
「……ん?」

@女医
「……え?」

@俺
「……いや、そうか。その先を続けてもいいんだが」

@女医
「……黙れって言われたし……」

@俺
「いや、是非喋ってくれ。洗いざらい全てその悪行を」

@女医
「……でも、聞いたらきっと、あなた怒るから」

@俺
「ああ俺も多分、すさまじく激怒すると思う。っていうか
あなたとか呼ぶな気色悪いから」

@女医
「うわごとのように、結婚したい、結婚したい、貯金も何もかも
全部あげるし、稼ぎも全部あげるから結婚してくれと」

@俺
「……」

@女医
「それで、こんな状況だし私、もうどうしていいか解らなくなって」

@俺
「……」

@女医
「あなたの持ち物の中にあった家のカギ使って、部屋の中の物を
全て売り払って、車も処分して、あなたの実家にはあなたが死んだ
から、婚約者の私にあなた関係の保険とか全部任せてって言って、
それから会社の方には退職金の請求を」

@俺
「冗談だよな?」

@女医
「今の私が冗談の通じる状況に見えるんだったら、認識に
相当問題があると思いますよ?」

@俺
「……んな……馬鹿な……」

@女医
「忙しい一週間でした。年明け早々ですけど。あ、明けまして
おめでとうございます」

@俺
「……めでたくないんだが」

@女医
「いえ、だいぶめでたい系だと思いますが。富士山が爆発して
鷹がナスビに食べられる夢ぐらいめでたい感じがしますよ?」

@俺
「いいや、全くそうは思えない」

@女医
「照れ隠し?」

@俺
「キッパリと違うし。いや……ちょっと待て。やっぱおかしい。
いくら何でもそんなに上手く行くはずがない。嘘だ!」

@女医
「そうですか?」

@俺
「そうだろ!」

@女医
「そうかなぁ?」

@俺
「そうだって!」

@女医
「そう思います?」

@俺
「くどいな!」

@女医
「本棚の二段目の漫画の裏ですよね?」

@俺
「く……お……」

@女医
「実印、探したんですよ。もう家中」

@俺
「……おああ……」

@女医
「まさかあんなところにあったなんて……」

@俺
「……あああ……」

@女医
「印鑑と代筆屋さんがあれば、大丈夫。上手く行きますよ」

@俺
「うわあああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああ!!」

@女医
「あとは、この注射を打てば……」

@俺
「や、た、らめぇ……」

@女医
「大丈夫ですよ。今度は、量を二倍にしましたから。それに
絶対事故死で通りますよ」

@俺
「いやあああああああああああああああああああああ!!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


チュンチュン……

がばっ!!

@俺
「ああああああああああああああああああああ……」

チュンチュン……

@俺
「……典型的な朝チュン……これは夢オチフラグ……?」

そう呟く。意味もわからずに。

ぐっしょりと寝汗をかいていたが、目覚めたのはいつもと
全く変わらない自分の部屋だった。
少しくすんだ色の天井も、濃いオレンジ色のカーテンも、いつもと
全く変わらない。

身体の調子はいい。すっかり良くなっている。別に栄養失調にも
なっていないし、寝ぼけている以外では健康そのもののようだ。

夢……?

そうか。夢か……。

俺は溜息をつきながら、内心で苦笑いした。

嫌な夢だった。
心底嫌な夢だった。

しかし、夢ごときに振り回される自分が滑稽だったから。

……夢に溺れ、夢に溺死する。

まさにそれだ。

@俺
「ふぅ……全く。俺って、ホント……。まぁいいか。
TVでも点けるか」

枕元にあったリモコンの、電源ボタンを押してみる。
ぱつん、と音を立てて、TVの電源が入った。

画面が映る。

どこかの大きなホールのような場所に、着飾った若者達が嬉し
そうにしている様子が映し出された。
ニュース番組のようだが。

何気なくその光景を見つめる。

そう、何気なく。

……

@俺
「……」

TV画面を見て、俺は総毛立った。
その画面の意味を理解したからだ。

@俺
「……これは……」


……これは、

……この、催しは……


……そんな馬鹿な……!!

急いで、部屋のカレンダーを見る。カレンダーは12月のまま
だった。

1、2、3、4、5、6、7……

……

@俺
「……俺、なんで生きてるんだ?」

そのTVに映されている様子を見れば、今日が一体いつなのか、
容易に理解する事が出来た。

そう。


それは成人式だ。


@俺
「……」

 カチャン

びくっと、俺の身体が震える。
それは俺の部屋のカギが、外から開けられた音だった。

俺の部屋のカギを持っている人間は、俺以外にいないはずなのに。

俺以外の誰かが、ゆっくりと。

扉を開けようとしていた……。


<END>
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