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クリスマス小説2011

唐突ではあるが

幸せだとか幸運ってものには、総量があると考えたことは
ないだろうか?

俺はどうも、クリスマスに良い目に遭わないと言うか
一言で完結させてしまうならば、要するに、不幸だと思う。

それも不幸としての総量と言えるだろうか。

過去何年かのクリスマスもそうで、今年も例外ではなかった。

思い返してみると、こういう流れが出来上がったのは24歳の
クリスマスの日から、だったかもしれない。




ちょっと昔話をしよう。

なに、そんなに長くない話だ。

あの当時の俺は、仕事に恋愛に、アクティブかつアグレッシブに
突き進んでいた。まさに飛ぶ鳥を落とす勢い。怖いものなど何も
無かった。

当時付き合っていた彼女。
黒髪ショートの可愛らしい子で、名前は今田響子。交際3か月だったが
本気で彼女と結婚しようと思っていた。

クリスマスイブの夜。俺は彼女を誘い出し、食事の後には夜景の見える
公園で肩を並べベンチに座っていた。
決めてみせる。
そう、プロポーズの言葉も指輪も用意していた。

意を決して彼女に大切な話を切り出したとき、おうむ返しのように
同じ言葉を返された。
「大事な話があるんです」と……。

何だよ大事な話って……。

@響子
「ごめんなさい……今まで黙っていて……。騙すつもりはなかったんだけど
なんとなく……言い出しにくくて……」

@俺
「な、何のことだ? 騙すって何が」

@響子
「実は……」



ぶぉおおぉぉおおぉう







視界が真っ白にぼやけ、彼女の顔が異形のクリーチャーに変わった
瞬間に、唐突にその懐古は遮られた。

ああ。

いかんいかん。

膝を突いて、起き上がる。

images.jpg


周囲は見渡すかぎりの、銀世界。
斜面に突き刺さったような姿の白樺の木が、否応なく、ここが北海道である
ことを主張するかのようだ。

降雪量は測るすべもない。とにかく、大の大人を埋め尽くしてなお、
頭上に余裕ができるほどだと思われるが。
実際のところ、それが2mなのか3mなのか、そんなものはどうでもいいし
美しくきらめく銀世界も、軽やかなパウダースノーも、実際のところは
あまり今興味を持つ対象ではない。

じっとりと湿ったスキーウェアから伝わってくる不愉快な寒さほどは、
忘れ難いにしても。

両手にはめたグローブに砂のように付着した雪を払う。
それらは雪面に落下する前に、風に煽られて消滅していく。

そして、俺は途方に暮れた。





なぜなら、俺は遭難したからだ。












2011年度クリスマス短編小説
『そして僕は途方に暮れた』















先程はうっかり夢見ながら眠ってしまいそうになったが
実は自体はけっこう一刻を争う事態で、

携帯電話を取り出して時刻を確認した。
今は16時。

北海道の冬は日が異様に短く、もう既に夕方を通り越して
暗くなりかけている。

ちなみに、携帯電話で助けを呼べばいいんじゃないかという
発想は残念だ。
俺が持っている携帯電話はソフト○ンクであり、山の中での
圏外力は仮面ライダーブラックRXですら恐れ慄くレベルだ。
今この場に、あの白い犬がいたら躊躇わずに鍋にして食べてしまう
だろう。そのぐらい温かいものが欲しい。


雪山で遭難した時、なお救助を呼ぶ方法もない場合、第一にすべき
事は何か。
それは雪洞を掘ることだ。とにかく体力のあるうちに雪洞を掘って
雪風を凌ぐしかない。

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だから、今は一心不乱に雪を掘っている。
道具が何もないため、嫌になるほど効率が悪い両手で。

それにしても。
雪混じりの風ってのは、これほどまでに『痛い』のか。
氷の粒が飛んできているのと変わらない。遭難してから1時間だが
既にすっかり参っていた。

そもそも、なぜこんな所にいて、なぜこんな所で遭難したか。

そちらはむしろ、長い話になる。
今は時間が無いからとりあえず後回しだ。
雪の下には氷の層があり、それを砕くのは手では無理なので、
スキーを挿したりストックで突いたりしなければならない。しかし
それでも全く効率は良くない。金属のスコップがあれば、容易に
どうにかなると思うが。

しばらくして、どうにか一人分の雪洞と言うか、雪の中の小さな窪み
を作ることができた。それでも少しは、少しぐらいは違う。
何時間か、何十分か、命を繋ぎ止められる。


なんて日だ。
なんて週末だ。


なんてクリスマスだ……。


ああ、一ヶ月前に。

福引きに当たったりしなければ……。



薬局で頭痛薬を買った際にもらった抽選券で、名前の知らないぐるぐる回す
福引きの機械を回したら、銀色の玉が出た。それが2等的中の玉であり、
見事俺は、2泊3日北海道スキー旅行ペア招待券をゲットした。



そして、一人で北海道に来たわけだ。



……



……聞いていて多少の違和感を感じる人がいるかもしれないが、
ペア旅行券を一人で使ったってなんにも悪いことはない。
その旨を旅行会社に連絡したら一人分で大丈夫だと言われた。



ああ、そうだ。電話でだ。

「一緒に行く人がいないんですが、一人でもペア旅行券って使えますか?」



そう聞いたんだ。

その時、電話口から風の音が聞こえた。
そして数秒後に、担当者の女性が
ことのほか朗らかな声で答えてくれた。

大丈夫ですよ、お一人でも。


……

ああ、わかっている。言われなくたってそのぐらいはわかっている。
だからそんなに哀れむような視線で見ないでほしい。


最初に聞こえた風切り音は、吹き出した音だ。
次の沈黙の数秒は笑いをこらえている時間。


最後の言葉を喋る際、恐らく、相手の女性の横隔膜にはかなり負担を
掛けさせてしまったと思う。

そして、北海道に来て、あまりやったことのないスキーをやって
ある程度滑れるようになったから、回り道の林間コースに行ってみたら


この結果だ。


コースを間違ったあげく、違う斜面を滑り、なおかつ天候が猛烈に悪化し
コースが閉鎖されるという連絡放送を遠く聞いた。

放送の聞こえた方に歩いていったつもりだったが、気がつけば見たことがない
一面の雑木林に侵入していた。


その時点で間違いなく完全に遭難している。


ピンチはチャンスになるって大塚愛が歌ってた覚えがあるが
このピンチからどんなチャンスが生まれるのか、とても興味がある。

生き死にに関わるピンチなだけに、それこそすごいチャンスであろう。

そのチャンスが訪れる日はもしかしたら明日かもしれない。


…………

……明日は、ないかもしれないが。




@俺
「ああ、そういえば今日はクリスマス・イブか」

@俺
「サンタさんが現れて俺を救ってくれたりしないかな」

@サンタ
「やぁ呼んだかねふぉふぉふぉ」


@俺
「!?」

@サンタ
「呼ばれたように感じたんじゃが呼んでないのかな?」

目の前に突然現れたのは、赤い服を着て大きな白い袋を背負った
まさに完全な、誰がサンタと言われて思い浮かべるそれの姿で
俺の前に立っていた。

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@俺
「い、いや、呼んでます。サンタさんですか?」

@三田
「サンタっていうか、三田(さんた)ですじゃふぉふぉ」

@俺
「ん、ま、まぁ名前はあんま関係ないんで。
その、今俺遭難してて
何か救助を呼べるものがほしいんですけど」

@三田
「それならこれなんてどうじゃろ」


三田は袋の中をガサガサとまさぐり、白いプラスチック製のマスクの
ような物を取り出した。

fc1[1]



@俺
「これは?」



@三田
ファウルカップじゃ。股間につけるとよい」

@俺
急所を守るものじゃねーよ!! 救助を呼べるものだよ!!」



三田は再び袋の中をガサガサとまさぐり、今度は薄切りで扇形の
白い漬け物のような物を取り出した。



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@三田
「あったあった。これをお前にやろう。ふぉふぉ」

@俺
「これは? ……うん。旨い。カブの漬け物?」

@三田
「千枚漬けじゃ」

@俺
京都で食べるものでもねーよ!! どんな聞き違いだよ!!
本当にちゃんと聞いてるのか!」

@三田
「最近歳で耳が遠くての。補聴器を新しくしないととは思ってるんじゃがの」

@俺
「救助だよ!! レスキューミー!!

@三田
「爪先立たせ海へ?」

@俺
「モンローウォークして行く?」

@三田
「いかした娘は誰?」

@俺
ジャマイカあたりのステップで、ってジャマイカあたりって
具体的にどこだよ!!


@三田
「クアラルンプールあたりじゃ」

@俺
「違うだろ!! っていうか何でセクシー・ユーなんだよ!!
今この状況に郷ひろみがどう関わってくるんだよ!!
俺が言ってるのはレスキューミーだろうが!!」

@三田
「なんだ救助と言っておったのか。ほれ、無線機なんてどうじゃ」

@俺
「無線機!! それは今一番ほしかった!!」

@三田
「喜んでいただけて何よりじゃ。三田は良い子の味方じゃぞ」

@俺
「……ん? 電源入らんぞこれ」

@三田
「単3電池6本が必要じゃからな」

@俺
「くれよ」

@三田
「電池ぐらいコンビニで買えば?」

@俺
「おいこらジジイ!!!」

@三田
「プレゼントを渡し終わったらもう用はないんじゃ。ではまた来年」

@俺
「ジジイいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

@三田
「さーて、次は士別市の翔太くんに、3DS本体とマジコンのセット
配りにいくかの~」

@俺
「おいいいいいいいいいいいいいいい!!」












@俺
「おいいいいいいいいいいいいいいい!!」







@俺
「……」

@女
「……あの」



気がつくと、女が俺の上に乗っていた。

こちらに背を向ける形で、折り重なるように。



というか、俺は今、気づいたらと言っていたが……。


寒さのあまり夢を見ていたのかもしれない。
回りを見回しても、千枚漬けも無線機もない。(別にいらないが)

三田……いやサンタは夢?

まぁ、あんなカーネルサンダースみたいな、典型的サンタが
いるわけがない。


人は低体温になると意識がなくなり、幻覚などが見える事が
あるらしい。

八甲田山って映画で見た。


全裸で雪の中にダイブするぐらいまで行き着くらしい。


既にそうなりかけているのかもしれない。

ああもわかりやすい幻覚を見るようでは、おそらく凍死間近
なのだろう。考えたくもないが。


いや、それは置いておいて。

今の現状を振り返る。


女がなぜか俺の上に乗っている。

寒い。重い。



この感覚はかなりリアルだ。幻覚というわけでもないらしい。

@俺
「……ちょっと、状況が把握できないんだが……一体どうして
こんなことになっている?」

@女
「私は救助隊です」

上に乗ったまま返事が返ってくる。


@俺
「……救助隊がなぜ上に乗っている」

@女
「歩いてたらなんか落ちて」


@俺
「……」

@俺
「つまりこういうことか。俺が苦労して掘った雪洞を踏み抜いて
破壊して、上に乗っているということか」

@女
「あの落とし穴掘ったのあんた!?」

@俺
「落とし穴じゃねーよ! 今雪洞って言ったろ! てか降りろよ!」


突き飛ばすような感じで彼女を押し退けた。


@俺
「と、とりあえず救助に来てくれたことは助かる。これでようやく
帰れるな」

@女
「今ちょっとおしり触ったでしょ? 5千円

@俺
「……」

@女
「5千円。スルーしようと思ってんの? 5千円。レッツ新渡戸」

救助に来たという女をまじまじと見つめた。
黒髪をポニーテールっぽくした美人の女だ。目立つオレンジ色の防寒服を
着用している。



そして、その顔に関しては……

顔に関しては、見覚えがあった。



@俺
「なんでお前がここにいるんだ……」

見間違えかと思ったが違う。

女は、去年一昨年その前と、クリスマスに出会っては酷い目に遭わされた
あの女で間違いなかった。

@女
「あ、これは奇遇ね。あなたは確か権藤玉三郎さん」

@俺
「いや違うけど。奇遇って言うか、何で北海道にいるんだ!?
てか何で毎年毎年クリスマスになったら現れるんだお前は!!
あ、そ、そうだ!! お、お前!!」

@女
「なに?」

@俺
「去年、なんだかよくわからん金融ファンドの会社経営してたろ!!
なんで今こんなことやって……いや、そんなことよりあの会社、いつの
間にかなくなってたぞ!!


@女
「ああ、あれ?」

@俺
「なんかあの時
『電力ファンドなら絶対安定イイィィ!!
破綻の可能性ゼロ!!』
とか
『電力株破綻したら
日本は終了しますからwww』
とかめっちゃ押しだから
貯金全額行ったら、とんでもないことになったぞ!!」

@女
「言ったっけ?」

@俺
「言ったよ!! 言っちゃってたよ!! 俺の120万返せよ!! 」

@女
「何で返さなきゃいけないのよ」

@俺
「いやなんでって、人として株価20分の1
同情とか保障とか救済とかその辺なんかこう大人なんだから!!」

@女
「それってもしかして、
お金が全てっていう汚らわしい価値観の人間に罰が下った
という事じゃないですか?」

@俺
お前去年と180度言ってる事違うだろ!!
同級生の頬を札束で引っ叩いた話はどうなったんだよ!!」

@女
「うっそ、あんな作り話真に受けてたの?

@俺
「うっわ殴りてぇ」

@女
「まぁまぁ。いいじゃないですか120万なんてはした金」

@俺
「はした金じゃねーよ!! てかそれもそうだが
文句言いに店のあったところ行ってみたら、ゲイビデオ専門店
変わってて、間違えて入店して危うく初男が散らされるかと」

@女
「そんなこと今さらどうでも良いんじゃないですか?」

@俺
「いいわけあるか馬鹿たれ!!」

@女
「だってほら、今遭難してんでしょ? 遭難しているときに過去の
話とかして救助隊を怒らせるのは自殺行為じゃないですか?」

@俺
「……救助隊?」

@女
「救助隊です。札幌市消防庁勤務特別救急隊」

@俺
「去年まで悪徳金融やってたのに今度は救急隊!?
なんでだよ!

@女
「なんでって、採用試験に一発合格して、
その後起こった震災で、
3日間で1186人救助して
特別表彰受けて2階級特進して半年で
特救にスカウトされて現在に至るけど。試験ぬるかったわー」

@俺
チートキャラかよ!!

@女
「あ、そういえばあまり名前は出せない発電所の敷地に散らばってた
破片、記念に2~3個拾ってきたんだけどいる?」

@俺
絶対いらん!!まぁとにかく、救助してもらえるなら
何でもありがたい。言いたいことはこの際山ほどあるが置いて
おこう。さっさと救助しろよ」

@女
「うわー出た出た。モンスター要救助者ってやつですか。こういうのが
税金無駄遣いの現況なんですよね。指すりむいたから救助ヘリ呼べとか
靴擦れしたから迎えに来いとか、お前それサバンナでも同じ事言えんの?
って感じですよね。吐き気がします」



沈黙。



そして強まる風雪。


@俺
「……」

@女
「だいたい頑張れば脱出できる人ほどすぐ人に頼りたがるんですよね。
そーゆー人って社会的に言えば教えてくんって言うか、wikiとか見たら
わかっちゃった気になるっていうか、生身でぶつかって打開しようとしない
現代の人間の本当にダメな所って言うか、やっぱこういうのも政治のせい
なんですかねー」




さらに沈黙。



氷の粒となった髪の毛の先を、時々ほじくる。

しかしその作業もいい加減飽きてくる。



@俺
「……おい」

@女
「なんです?」

@俺
「凍え死ぬぞ」


女は、そう言われてから自分の服の袖をつまんで見せてきた。

@女
「私の装備は完全防寒装備なんで、全然平気ですけど」

@俺
「俺が死んだら間違いなくお前は社会的責任を免れまい」

@女
「まぁそりゃそうですね」

@俺
「ああ。だからさっさと助けるべきだと思う」

@女
「でも私も遭難してるんですよ実は

@俺
「へーそうなのか」

@女
「はい。ちょっと滑落しちゃって

@俺
「ほーなるほど」

@女
「やべーって焦ってるその時に装備の殆ど放り出しちゃって、実は今
アポロチョコ一箱しか持ってないんですよ。あはは」

@俺
「ははは」

@女
「で、帰り道どこです?」

@俺
「ねーよ」

@女
「またまたぁ」

@俺
「……」

@女
「……」

@俺
「……」

@女
「……」

@俺
「……」

@女
「……もしかして」

@俺
「……」




@女
「それ遭難してるって言いません?」

@俺
「お前バカだろ」











@女
「救助の専門家として言わせてもらうと、遭難したときはまず
雪洞を掘るべきですね」


@俺
「もうやったが誰かさんに壊された



正直すごく嫌だったが、その辺の枝を折って尻の下に敷き詰め、
二人背中をつけるような形で座った。

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時刻は19時過ぎ。風雪は全く衰えず、辺りは闇に沈み、視界は
ほぼない。気温はさらに下がっている。

彼女は、こういう状況のための生存のための
サバイバルマニュアルを持っていた。

一縷の望みに賭け、俺達はそれを使ってみることにした。




@女
「えー次。火を起こして身体を暖めましょう

@俺
「火種がない」

@女
火を起こせたら水を確保しましょう。雪を溶かし……

@俺
「火が起こせない」

@女
お湯は凍傷に効果的です。手足を暖め……

@俺
「火が起こせないっつってんだろうが!!」

@女
「マニュアルには火を起こせって書いてあるんだもん!!」

@俺
「それが出来なかったらどうすんだよ!!」

@女
「雪洞掘れって言ったでしょ!!」

@俺
「お前に壊されたっつってんだろ!!」

@女
「ああ言えばこう言う!! 一体どんな教育を受けてきたの!!
そんなんじゃお母さんも草葉の陰で泣いてるでしょ!!」

@俺
65歳で前橋に健在だわバカ野郎!! 他に何かないのか!!」

@女
「助けを呼ぶ!!」

@俺
「それができりゃ苦労せんわ!!」

@女
「火を起こす!!」

@俺
「お前はバカだ!!」

@女
「……」

@俺
「……」

@女
「……何この緊急時マニュアル。使えなさすぎる」

@俺
「火も雪洞もなかったらどうなるかは書いてないのか?」

@女
「書いてない」

@俺
「要するに」

@女
「うん」

@俺
「どういうことだ?」

@女
「うん」

@俺
「うんじゃなくて」

@女
「はい」

@俺
「はいじゃなくて」

@女
「……」

@俺
「……」

@女
「多分落丁本なんだと

@俺
「なるほどなー落丁本か」

@女
「書いてない部分には『2秒で雪山からこたつのあるお部屋に
ルーラする方法』
とかが書いてあるんだと思いますが」

@俺
「そうかそうか。で、そのページは?」

@女
「ありませんよ」

@俺
「死ねって事だな要するに」











1時間が経過した。20時過ぎ。

風雪は相変わらず収まらない。

@女
「そういえば今日ってクリスマスじゃないですか」

@俺
「ああそうだな。で、一言言っておくと今話しかけられる瞬間、
ちょっと意識が遠くなってたが」

@女
「少し前から実は思ってたんですけど、言っていいですか?」

@俺
「ああ、この際なんでも言ってみろ」

@女
「クリスマスに一人で北海道にスキー旅行とか完全にヤバイじゃ
ないですか?
ライオンの群れの中にヨークシャーテリアが
一匹いるぐらいヤバイ感じですよね。若干の尊敬を感じざるを
得ません。むしろ、こんなマゾプレイが業界で流行っているのかと
疑いを持ってしまうんですが、本当のところどうなんですか?」

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@俺
「こんなのが流行る業界って逆になんなんだよ」

@女
「だって、クリスマスに一人で旅行ですよ。で、スキーやって
遭難ですよ。で、凍死寸前ですよ。
ダブル役満って言うか、
ロイヤルストレートフラッシュですよね。桃鉄で言ったら、
記念仙人が出てきてリニア周遊カードくれるぐらいの


まぁ……

その意見については否定のしようもない。
言い方には若干ムカつくが。


俺は、少しうなだれながら呟いた。



@俺
「……俺な、その昔、ある女に結婚の申し込みしようとしてな」

@女
「懐かしいですね」

@俺
「お前じゃねーよ」

@女
「ああ、私の前の女の話ですか」

@俺
前も後もねーよ。その、彼女にプロポーズしようとしたんだが、
その前に彼女が口を開いてだな。俺を制してこう言ったんだ」

@女
「何てですか?」

@俺
『僕、本当は男の子なんだけどそれでもいいの?』と」

@女
「……」

@俺
「……」

@女
「男の娘ですか……」

@俺
「いやその呼び方はやめろ」

@女
「それでどっちが受けなんですか?」

@俺
「攻めも受けもねーよ!! 速攻でその場から逃げて指輪を大黒屋に
売り払って電話番号も全部変えて引っ越したよ!!
あんな可愛い子が女の子なわけなかったよ!!
ちくしょう!!
泣きながら賃貸情報紙見てたら
紅白で一青窈がもらい泣き歌ってて
俺がもらい泣きだっつうの!!

@女
マラい泣きって事では」

@俺
「黙らんかボケが!!」

@女
「その事が一体今の状況とどう繋がってくるんですか? きゃ、繋がる
だなんて恥ずかしい(//∇//)

@俺
「だから!! その時からこの方ずっと、クリスマスと言えばロクでもない
事ばかり起こってるんだよ!! お前と出会ってからも出会う前からも!」

@女
「あ、アポロチョコ食べよう」

@俺
「食うなよ!! 少しは状況と俺の境遇に対して同情したり感動したり
慰めたり何かあんだろうが!! なんとか言えや!!」

@女
「男だったらダメとか性差別はよくないと思います!!」

@俺
「言いたいことはそれかよ!!
とんだクソ女だよお前は!!」


@女
「いやーそれほどでも」

@俺
「……」

@女
「……」








会話はそこで止まった。

会話が止まると、大きな風と枝鳴りの音しか聞こえなくなる。
雪が強くなってきた。




@俺
「……」

@女
「……」


いい加減、言い争いをする気力も無くなってくる。

俺は、どこか諦めの気分で呟いた。


もしかしたら、風で何も聞こえないような。

そんな、小さな声だった。


@俺
「……俺は、幸せには総量ってのがあって、不幸にも際限が
あって、それがもうちょっと……なんていうか………………

今年で不幸は打ち止めかもしれないとか、良いことがあるんじゃ
ないかと考えて、そんな期待をして、クリスマスを迎えてんだよ。

別になりたくてこうなってんじゃねーよ。

現状を打開するチャンスなんて、何かしらの行動を起こさなきゃ
そうそう転がり込んでも来ない。だから、辛くても、こうして
何かが起こることを期待してここまで来たんだ。

これが俺の精一杯の努力の形なんだよ。これ以上は無理っていう、
頑張りなんだよ。その結果がどうなっても、受け入れるさ。
結果は常に最悪だったが、
そんなものしょうがないだろ、って事さ」

@女
「……あのー……」

@俺
「……ん?」

@女
「……最悪ってほどでもないじゃないですか?」

@俺
「どこに最悪ではないと言う根拠があるんだ?」

@女
「だって、イブの夜に二人きりじゃないですか」



思わず。

思わず笑い出して、俺は



俺は……目を閉じた。



@俺
「そういえばそうだったな」

@女
「知らない仲でもないし」

@俺
「そうだ」

@女
「私は、あなたと死ぬのなら、そんなに悪くないかな、って思ってます」

@俺
「そうかな?」

@女
「だって、あなたの事が好きですから」

@俺
「そうか」

@女
「はい」

@俺
「……」

@女
「……」


@俺
「そう思えば、そんなに悪くない人生だったかな……」


目を閉じているから視界は暗いのだが、
さらに深い闇が迫ってきているような気がした。



その闇の名前は、もしかしたら死神とか呼ばれるものなのかも
しれない。仮にそうだとしても、抗う気持ちを奮い起こすには、
少々疲れすぎてしまったのかもしれなかった。


恐怖感がない。

死んでしまうことに、全く恐怖感がない。
それは多分、寒さで神経が凍りついてしまった事だけではない。
今が、孤独ではないからだろう。



それが幸せか。



そんなことが、幸せだったのか。



@女
「二人で死ぬなら怖くありませんよ」

@俺
「そう……だな……」

そして、俺の意識は途絶えた。

それっきり、風の音もヒュウヒュウという枝鳴りも聞こえない。



何も……何も……聞こえない。









@女
「大丈夫ですよ、あなた一人で死なせませんから。私も一緒です」



その言葉を聞きながら。




午後22時。





@俺
「……」








風雪は、突然止んでいた。



@俺
「……ん……あ……れ……?」



雪にまみれた身体を起こす。
結構な量の雪が体に乗っていた。



もしかして、雪が……雪が乗っていた方が、暖かかった?
しかも幸運なことに、風雪が止んだ。

おかげで……。


これはもしかしたら、彼女と俺、どちらも助かるかもしれない。



振り返る。彼女の方は大丈夫だろうか?




@女
「……」




あの女は、ちいさな『一人用の雪洞に』入っていた。




@俺
「……」

@女
「……」

@俺
「……」

@女
「……」

@俺
「……何してる」

@女
「……ゆ、雪山で遭難したときは、まず雪洞を」

@俺
「いやそれは知ってるんだが、

その雪洞になぜ一人で入ってるのか

尋ねているんだが」

@女
「いえ、これ一人用の大きさですし二人はちょっと狭いっていうか」

@俺
「さっきなんか、俺が気を失う瞬間に
うっすらと何か調子のいい戯言を聞いたような気がしたが」

@女
「え? 幻聴ってやつじゃ。ほら人って死ぬ寸前にはいろんなもの
見ちゃうってよく言いますし。幽霊とかサイババとか池田大作とか
死にかけの毛利元就とか

@俺
「そうか。まぁ幻聴ならそれはそれでいいんだが、『明らかに一人で
助かろうモード』
の体勢に入っている貴女様の言い訳を聞こうか」

@女
「外で雪風に当たってたら寒くなってきたんで」

@俺
「ほう」

@女
「なんか後ろでぶつぶつ独り言言ってる人を蹴倒して、鍛えられた特救技術で
速攻で自分用の雪洞掘って中に入って、よくよく考えたらメタルマッチと
着火材持ってたし火つけられる事に気がついて、雪洞で暖まってたところ
雪と風が弱くなって完全に死んでると思ってた人がいきなり雪の中から
出てきて」

@俺
「ほう」

@女
「なにあの人生きてたのww
ちょwwマジうけるんですけどww
ゾンビリベンジwwwww
と思って」


@俺
「ふむ」

@女
「……」

@俺
「……で?」

@女
「ぐすっ……あなたが助かって本当に良かった……」

@俺
「しばいたろかボケ」

@女
「ちょっと待ってください」

@俺
「何だよ。神様は多分お前を50発は殴ってもいいと言うと思うが」

@女
「今夜はクリスマスです」

@俺
「だからなんだ」

@女
「考え方を少し変えてみては?」

@俺
「どんなふうに?」

@女
「遭難して死にかけた、果たしてそれは本当でしょうか?」

@俺
「ほう?」

@女
「サンタさんから死のプレゼントと考えればそう納得

@俺
「するか!!」

@女
「まぁまぁ。結局死ななかったんだからいいんじゃないですかチッ」

@俺
「露骨に聞こえるように舌打ちするのはやめろ」

@女
「しかし、何をどうすると言いたいんですか。この先」

@俺
「雪洞をもう一つ掘ればいいだろそのなんとかテクニックで」

@女
「ヤどぅ~」

@俺
「……」

@女
「めんどうくさいすぃ~」

@俺
「……じゃあ、その雪洞に入れろ」

@女
「え、これ一人用の大きさしかないんですけど」

@俺
「くっついて入ればいいだろうが」

@女
「きもっ!! うわーきもすぎる。きもいわーきもい。ちょっと
何期待して見てるんですかこの変態!! ド変態!! Da変態!!」

@俺
「……」

@女
「あんな狭い雪洞に二人で入って間違って子供とか出来ちゃって
子供手当て縮小されて稼ぎも少ない中、ようやく3歳になっても
幼稚園少なくて待機児童になる未来とか、考えるだけでおぞましい!
子供が旧帝行けなかったりしたら全部あなたの責任ですからね!!
この就職難の時代に東証一部上場企業に入れなかったらそれだけで
ブラック直行とか揶揄されてるってのに、子供がサ残連発で
スカスカのおせち
とか作らされるのを黙って見てるなんて
私耐えられない!! 低学歴の行く先なんて偽装牛肉売るか、
偽装野菜売るか、福袋に1GBのminiSD50枚入れる仕事ぐらいしか
回ってこないの!!
こうなったら責任取って自分に保険金掛けて
ヒ素飲んで死んでください!!」

@俺
「普通そこまで考えねぇよ!! どんだけ創造力逞しいんだよ!」

@女
「つまり私は雪洞に寝て、あなたは外で寝るべきだと思います。
はい多数決で賛成の人。総数2分の1の賛成で可決されました」

@俺
「貴様レスキューとして完全におかしいだろ」

@女
「レスキューがなんで救助者にそこまでしなきゃならないんですか!!
怒りますよ!!」


@俺
「いやだからおかしいだろ!! お前本当にレスキューかよ!!

と言ったら。
女はニヤリと笑った。



俺は訝(いぶか)しく、その表情の変化を捉える。



悪戯を仕掛け、それが決まった喜びを表すような表情。




@女
「実は違うんですよ」





@俺
「いきなり何言ってやがる!!」

@女
「いや本当に、レスキューじゃないんですよ私」

@俺
「じゃあ何だよ!!」

@女
「サンタ・クロース」







@俺
「…………………………………………………………
………………………………………………………………
………………………………………………………………
………………………………………………………………
………………………………………………………………
………………は?」







サンタクロース









@俺
「は?」

空。

見えるのは、空。

そして、くすんだ雲。


オレンジの服を着た男が、覗き込む顔。



@救助隊
「大丈夫ですか? 自分の名前は言えますか?」

@俺
「……え」

@救助隊
「わかりますか? 我々は札幌市山岳救助隊です。スキー場に
滑落の痕跡がありまして、早朝から捜索してたんですよ」


担架に寝かされ、斜面を引き上げられていた。


@俺
「……え」

@救助隊
「雪洞を作って風を避けていてくれて良かった。幸いにして
凍傷もそれほどひどくありません。いやーそれにしても昨晩の
吹雪でよくあれほどの見事な雪洞が作れましたね。
二人分はありましたよ。山登りか何かをされてたんですか?」

@俺
「……はぁ。それは女性のレスキュー隊員の方が」

@救助隊
「女性? ……当救助隊に女性隊員はいませんよ。はは」

@俺
「……はぁ。そうですか。
じゃあ、サンタが掘ってくれたんでしょう

@救助隊
「……なるほど、そうかもしれませんな」

@俺
「……」

まぁ、そりゃあそうだろうな。

欠片も信じられないって顔しているが、実際何がどう信じられるものか。




幻覚でも見ていたんだろうが。
そう、どちらかと言えば悪いほうの幻覚を。


IMG_1228-aebd4[1]



雪は上がっている。



空は美しい。





さて、

これが、夢か、幻か。それとも真実か。



確かめる手段が思いつかず、


俺は、ただただ笑顔で、途方に暮れるのだった。





<END>

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≫ EDIT

2010年度クリスマス小説

2010年度クリスマス短編小説

毎度ご愛顧有り難うございます。
今年もこの日を迎えました。
僕は飛鳥先生に頼んでクリスマスツリーをチェストーッて
折ってもらおうと思います。空手一代誓った日から~♪
クリスマスイブが金曜の夜ってもうなんかアレだよね。
今日は渋谷で5時ふたりでサボタージュだよね。
今年のテーマ?
『Money』
あなたはMoneyで何を思い浮かべますか。
いつか奴らの足元にBIG MONEY叩きつけてやるですか?
浜田省吾ですか。
海は死にますか。

どうでもいいんだけど、竹内まりやの『すてきなホリデイ』
流れ過ぎだと思う昨今。いい加減どうにかしてくれんか。
『リア充爆発しろ』の歌とかにすればいいのに。







2010年度クリスマス短編小説
『Money』




@女
「いやっ! もう離して!」

@男
「なぜだ!?」

@女
「理由なんか……!」

@男
「……わかっているはずだと? そう言いたいのか」

@女
「あなたは……変わってしまった。私のような貧しく卑しい女とは
 違う……大理石の豪邸と、充実した仕事。華々しい日々の中で」

@男
「何も変わっていない。あの頃の僕と、僕達と! 変わったの
 はただ、あの星々だけだ」

@女
「南十字星……」

@男
「君がいなくなったあの日から、変わってしまったのは世界だけだ。
 僕達は何も変わっちゃいなかった。君を探し求めて、そして今、
 この腕の中にある。離せるわけがないだろう!」

@女
「……でも、あなたは……そのために、あなたの地位も、名誉も
 全財産も捨てることになるの……わかってるでしょ?
 あなたが胸に抱いているのは、許されざる愛……」

@男
「許されざる愛? 違う。愛は許しではなく、誓いなのさ
 誓いのために、何もかもを捨てた馬鹿な男なんだ」

@女
「ジョン!」


W20101223180658455.jpg

チャラララ~チャ~チャ~♪


やけに騒々しいオーケストラの音楽と同時に男女は接吻する。
そう。
あれが伝説にある接吻というものだ。

世の中にはあれを、両親以外とできる権利を所有する者が
ほんの僅かだけ存在するらしい。

その数は全地球人口の0.05%と言われ
彼らは絶滅危惧種としてレッドデータブックに記載されている。

そして俺は、その他99.95%の圧倒的多数派に属している。



街路はイルミネーションに彩られていた。
植樹一本一本にからみつく小さな電球が白く輝き、濃紺の夜空に
ぼんやりと綿花のように浮かび上がる。
59896251.jpg

風はなく、穏やかな街路には色とりどりの飾り付けを施した店が
立ち並び、客を招く声と足音でまさに、ごった返している。

行き交う人々の談笑。男女二人組。男女二人組。あっちも男女。
こっちにも男女。男女男男女男女……。

そしてこのクリスマス前夜に。


あっちでも接吻。

こっちでも接吻。


言うまでもなく夜になればもっとすごい接吻

接吻だけで済まず、
身分を明かすことなく入ることができる薄暗い建物の
サイケデリックな装飾を施された部屋に入り込み、
ヌルヌルする液体を身体に塗りたくり、
ゴム製の防護具を装着。
怪しげな機械をはじめ、蝋燭、果ては鞭や猿ぐつわなど
中世の拷問器具まで準備し、
二人きりでしか行えないエキセントリックで
悪魔的な実験すら行われるという。

それらの設備を提供する邪悪な建築物は、このキリストの誕生日に
合わせるように活気づいているというから禍々しい。

秘密に包まれた儀式を暴こうと撮影機器や盗聴装置を設置した
勇者もいた。だが、彼らのその勇気も、公安警察が刈り取っていった。

国家ぐるみなのか!
もはや地球上に安全な場所などなかった。

しかし形はどうであれ、それはある意味で愛と言える。
少なくとも孤独ではない。パピコが2本組である事と同じ程度には。

61.jpg



不思議だ。

本当に不思議だ。


地球人口の99.95%は、最近異性とお話したこともなく、携帯の
着信履歴は3ヶ月以上残っていて、メール履歴はスパムメールか
仕事関係のものだけで、
アドレス帳にはピザ屋の番号とアニメの
キャラの名前が入っている
のが普通だと聞いている。

それなのに。この街路はどこを見てもカップルだらけだ。

世界の隅々からこんな局所によく集まってきたなと感心する。

毎年なので薄々感づいてはいたが、どうやら俺の行く先々には
天然記念物級に少ないはずのカップルがわざわざ集まっているらしい。
そうでなければ絶滅危惧種のカップルがこんなにいるはずがない。

なんて運が悪いんだ!!

クリスマスに街を歩いていたら、たまたまカップルが集中している
場所に出くわしてしまった!!

そして奴等の不純な愛を見せつけられる。

高級バッグをねだる女の、まさに一世一代の演技。彼氏も騙されて
高いプレゼントをするのだろうが。
胸くそ悪い。

愛の物欲にまみれた側面が一番醜い。真実の愛など奴等には永遠に
理解されないだろう。金や物で人の心が買えると思ったら
大間違いだ。

あの映画のラストを見てみろ。ひどい駄作だったが、最後に
愛が金で買えないことを証明した。お前らにはそれが夢物語に
見えるだろうが、それがこの世の真理だ。
要するにカップルはみんな死ね。
裏返しになっちゃえ。


それにしても、どこからこんなにうじゃうじゃ沸いてくるのか。

いや、もしかしたら
これは全部兄妹かもしれない。
あの腕に抱きついているのも、一緒にショーウインドウを覗いて
いるのも、ちゅっちゅしている彼らも。

「な、なにくっついてきてんのよ!」
「くっついてきてるのはお前だろ」
「だって、回り見たらこうするのが普通っぽいし……か、勘違い
 しないでよ!
 恋人だと思われたらお互いイヤでしょ」
「俺は別に構わないけど」
「え……? おにい……ちゃん? 今なんて――」

雑踏の中で聞こえないが、彼らの中でそんなやり取りがあるのかも
しれない。

もしくは姉か。「おねえちゃんと一緒にクリスマスを過ごすのなん
て、イヤ?」
みたいに優しく問いかけられるとしたらどうだ。
なんて答えたらいいだろう。

ふふ、ははは。

映画館を出てから、俺はあてどなくふらふらと彷徨っていた。
世間は寒い。
年末の冷たいからっ風は物理的にも寒いが、精神的にも寒い。

俺がいったい何をした。

毎年毎年、普通に働いて過ごしているだけだ。
品行方正で、邪な考えなど何一つ持っていない。

暇つぶしに入った映画館で、たまたま上映していたのが恋愛映画で
しかもしれが糞つまらなかった上に回りがカップルだらけで、
一応最後まで見たこの俺の忍耐力は、表彰されてもおかしくない。

ヒロインがバナナの皮を剥いている時になぜか泣き出した前の
カップルの女の頭を、チュロス(シナモン味)で殴ってやろうか
思ったのに自制した。

こんな俺に。持ち家も車もなく、貯金も少ししかない俺に。

ああ、何か。何かないのか。俺の人生に、転機は来ないのか。
クリスマスに。この聖なる夜に。

ただ、こんな。幸運と愛に見放された男に、救いはないのか。


そんな時だった。

乾いた冷たい風にあおられて、何処からか飛んできた紙切れが
俺の顔にぶつかってきた。

@俺
「ぶぁっ……な、なんだこれ……」


チラシのようなものか?
10cm程度の長方形のその紙の内容に、視線を落とす。
周囲の雑踏が一層騒々しさを増したような気がした。

衝撃音が聞こえたような気がした。感情が昂る音。

俺の体が、明らかに寒さとは別の意味合いで震えている。


これこそが、聖なる夜に俺に与えられた転機……!?

その夜、俺は一睡もできなかった。







明けて。

クリスマス当日である。
よく晴れ渡った青空は、どこか成功の門出を祝福しているかの
ようだ。

俺は昨日拾ったチラシにもう一度視線をやり、それを大切に
折り畳んで上着のポケットに入れた。

@俺
「ここか……」

時刻は朝の10時。土曜日の朝を、こんなに清々しく迎えたのは
久しぶりだった。
どうしても拭えない、じっとりと湿っぽい緊張を和らげてくれる。

見上げたビルの6階。そこが目的の場所だった。

もう一度その看板を眺め、そして確かめるような思いでチラシの
中身を反芻する。


@俺
【人生大逆転の大チャンス! 貧乏なあなたも少ない投資で
大金持ちに! 1万円からでもできる最強圧倒爆熱究極投資術!
見よ!! 残高は赤く燃えている!!】
か……」

残高が赤く燃えてはいけないような気がするが気のせいだろう。

そう。要するにつまりだ。

@俺
「金だ」


金。ドル。ユーロ。ゴールド。ギル。マッカ。
要するにマネー。

マネーだ。金だ。

所詮人生は金。金さえあれば大体のことは上手く行く。
ド汚いと思われるかもしれないが、それは真実である。

昨日見た映画では、青年実業家の男は財産をなげうって
恋人を求めたが、あれはつまりなげうつ財産があるから
バナナの女も膝を叩いて、『ようし、一丁キスしますか』
みたいな勢いが生まれたという説である。他にどう考えろと
言うのか。

全財産200円のニートが、全財産をなげうつ覚悟を見せても
母親ですら泣いてはくれないだろう。いや、別な意味で泣く
かもしれないが。


そう。考えれば考えるほどに、何をすべきかは明白なのだ。

金がないってのはどういうことか。
魚のいない釣り堀に糸を垂らしているようなものだ。

愛や幸せを手に入れたければ、金を稼ぐのが一番早いという
ことだ。金を持っていると女が寄ってくる。そうすりゃいずれ
真実の恋だとか愛だとかにヒットする。
魚がいない釣り堀じゃ何時間釣っても釣れるわけがない。

そう。貧しさはすべてを奪う。クリスマスを人並みに楽しめ
ないのも間違いなく金がないせいだ。
人間の意志なんて金があればどうにでも出来るし、愛なんてのは
その後についてくればいい。その方が手っ取り早いのだ。
間違いなく。

人生をひっくり返すためには一攫千金しかない。

@俺
「よし、行くか」

ビルの6階。
弾む気持ちを抑えながら、『まんた金融マネジメント』という表札が
掛かったドアを開いた。

@俺
「すみません」

@男
「いらっしゃいませ」

店内は思いのほか普通で、銀行のようにさっぱりとした内装だった。
最初に応対したのは、カウンターの向こうにいる男性店員。

@俺
「チラシを見てきたんですが」

@男
「ああ。では少々おかけになってお待ち下さい。社長ー!」

詐欺かなにかかと不安に思ったが、本当に拍子抜けするほど何もない。
男性社員らしき人物も、スーツ姿の無害そうな印象だ。

社長を呼ぶというのでついたての向こうへと消えたその男性社員の
勧めに従って、椅子に腰掛ける。

もう一度チラシを開いて、眺めながら。

……

数十秒後、女性が目の前の椅子に腰掛けるのがわかった。
チラシに視線をやっていたので、視線の端に足が映ってからだが。

@女
「はーい。お待たせしましたー。そのチラシをご覧になって来て
 いただいたんですね。ありがとうございます」

@俺
「ええ、いや、どうも。それで――」

喋りながら視線を上げる。

@女
「はい。どうかなさいましたか? 私の顔がそんなに絶世の美女
 だからって、見つめられると1分当たり250円を請求しちゃうかも」

@俺
「……お……お……ま……え……は……」

@女
「あら、どうなさったんです? 緑色の汗なんて流して」

@俺
「おまえはーーーーーー!!! あ、あのクリスマスの!!」

@女
「……?」

@俺
「忘れたふりをするな!! 俺に見覚えがないとは言わせんぞ!?」

スーツを着た女が、思案げに右手で口元を抑え、眼を細める。

@女
「……まさか……あ……あなた……」






~~~~~~~~~~~~~~~


~~1年前~~


@俺
「くそっ、こっちはもうダメだ!! 囲まれてる!!

@女
「ど、どうすればいいの!?」

@俺
「くっ……こうなったら、俺が奴らを引きつける。お前はその隙に
 地球防衛隊本部へ急ぐんだ!」

@女
「そんな! 無茶よ!」

@俺
「だが、無茶でも今はそれしかない! お前は『アダム計画』に必要な
 因子を持つんだ。奴らに奪われれば、地球は終わる!」

@女
「……だからって……あなたを置き去りにしてなんて……」

@俺
「時間がない! 走るんだ! 行け!」

@女
「!!」

@俺
「メリークリスマス」

@女
「いやあああああああああああああああああああああ!!」



~~~~~~~~~~~~~~~



@女
「あの時、あなたは死んだとばっかり……」

@俺
「毎度毎度わからないが、今の回想シーンは一体どんな脈絡があっての
 ことだ」

@女
「まさかこれがゼーレの意志?

@俺
「誰だ」

@女
「って、よく見たら赤の他人じゃないですかー。全く人騒がせな」

@俺
「一人で勝手に勘違いしているだけだろ」

@女
「大体、あいつは私の計画通りあそこで射殺されたはず……

@俺
「お前が黒幕かよ。
 いや、そうじゃなくて、毎年のことながらだが一体
 なぜお前がここに。最初に会った時は床屋、次に会った時は医者
 去年会った時には水商売。で、今年は金融詐欺か」

@女
「詐欺じゃないです失礼な! 一体何を根拠に詐欺だなんて!」

@俺
「いや、モロ俺の主観で。お前が関わってるとロクな事にならんし」

一体どういう巡り合わせだろうか。
クリスマスに同じ女に何度も出会うなんて。


そもそも、それぞれを思い返してみれば。この女はいつもいつもロクな
事をしていない。おかげで死にかけたこともあったし、財産を全部
奪われる寸前にもなった。通報すれば確実に逮捕出来るだろう。

俺は右手でこっそり携帯電話を取り出し、手探りでダイヤルを押そうと
した。
早い内にここから逃げ出して、布団を被って寝てしまうのが
一番だ。


と、その時。

@男性社員
「社長? どうしました?」

ついたての向こうから、男性社員が声を掛けてくる。社長? 
社長……。

@女
「なんでもないの。ありがとう灰原君」

俺は、少しだけ声をひそめて社長と呼ばれた女を睨み付ける。

@俺
「おい。社長ってどういう事だ」

ダイヤルを一旦中断して聞く。

@女
「社長って事はつまり会社で一番偉いのよ。アリ社会で言うと女王。
 マグロ社会で言うと天然物。マックで言うとくるくる回るmの字」

@俺
「なぜだ。また犯罪行為か」

@女
「何言ってンです? 勿論働いて稼いだお金を、自分で考案した投資術で
 運用した結果、巨万の富を得ることに成功したこの私に向かって。
 ホホホ」

@俺
「……なん……だと……?」

@女
「お金がある生活っていいですよー。まず手始めに小学校時代の同級生を
 全員呼びつけて、ひざまづかせて札束でほっぺたをひっぱたいて

@俺
「お前の小学校時代に何があった」

@女
「玄関が暗かったから1万円札に火をつけて
 『どうだ明るくなつたろう』
 て言ってみたり」

@俺
「社会の教科書で見たぞそれ」

@女
「まぁ、お金を得る前は色々世の中を呪ったり、物欲にまみれた愛とか
 振りかざすカップルとか爆発しろとか思いましたけど、金を得てしまえば
 人間なんて金の力で自由に出来ますしー」

@俺
「なんてひどい奴なんだ。金で人の心を自由にできると思っているなんて」

@女
「へー。じゃあ、わざわざクリスマスの日にそんなに大事そうにチラシを
 折り畳んで持ってくる人は、そうは思っていないのですか? うりうり

@俺
「くっ……! 俺は純粋に、金儲けとか素敵やん! って……」

@女
「なるほどなるほど。まぁいいでしょう。ここまでの失礼千万な物言いを
 全て忘れて、とっておきの儲け話を教えてあげても良いですけど」

@俺
「いや、別にいいや」

@女
「……」

@俺
「…………」

@女
「………………え」

@俺
「いや、多分詐欺だし。もうなんか、絶対失敗するし」

@女
「……」

@俺
「……」

@女
「……ふっ」

@俺
「!?」

@女
「私を甘く見ないで。この部屋は全てオートロック。日本語で言うと
 岩自動」

@俺
「くっ、ドアが開かない!」

@女
「話を聞くまでは帰さない……というか話を聞いた上で有り金全部を投資させる
 まで帰さない……! この『まんた金融マネジメント』高収益の秘訣その1!
 必殺の≪グレート・アルティメット・バインディング≫

@俺
「軟禁じゃねーか!!!」

@女
「失礼な! 『お客様の投機のチャンスが失われることを
 強制的に防ぐ手段』です」

@俺
「貴様が儲けるチャンスを失わないための手段だろーが!」

@女
「いいですか。よく聞いて下さい」

@俺
「何だ」

@女
「この会社のモットーは、『一挙両得』です」

@俺
「はぁ」

@女
「お客様が儲けられた場合はその儲けを吸い上げ、お客様が損された場合でも
 私たちは得します。これが一挙両得システムです」

@俺
「死ねよ」

@女
「さぁ、投資したい気分がどんどん盛り上がってきたところで」

@俺
「盛り上がってない盛り上がってない全然これっぽっちも」

@女
「さて、ここにあるのはあなたの預金通帳です」

@俺
「……は?」

@女
「んーあなたの貯金額を見てみましょう。どれどれ……ほほー」

@俺
「どうやって手に入れた!!」

@女
「あなたの足下に誰かの忘れ物だと思われるバッグが置いてあったので」

@俺
「俺のだ!!」

@女
「で、この貯金120万円全額を投資したいと。なるほどなるほど」

@俺
「おいちょっと待て!! それは今月の家賃や生活費も入ってんだ!!」

@女
「甘い!!」

@俺
「!?」

@女
「……家賃? 生活費? 甘すぎてスイート。ふりむけば日本海」

@俺
「……何が言いたい」

@女
「家賃や生活費がなんぼのもんですか! 明日億万長者になろうと志す
 あなたに、守るべき家や取るべき食事があるんですか!!」

@俺
「!」

@女
「家なんかなくたって路上で生活すればいいじゃないですか!! 食事なんて
 取れなくたって1ヶ月ぐらい生きられます! 河川のゴミを漁ったら
 いっぱいお金が出てくるって大阪市環境局の人も言ってます!!
 それなのにこのご時世に、まさかたった120万円を惜しんで……
 確実に、安全に、億単位の大もうけができるのに!
 この手法に、あなたは全く興味がないと!?
 あなたはお金を儲けて、ねこ耳美少女メイドのほっぺたをお札でひっぱたき
 ながら、マジックハンドでミニスカートをめくりたくないんですか!?
 めくりたいですよね!? めくりたいはずです! 」

@俺
「め、めくりたい……」

@女
「むしろめくってほしいはずです!」

@俺
「めくってほしい……」

@女
「その状況を風紀委員に見られて
『ハレンチな!』って言われたいはずです!」

@俺
「言われたい!」

@女
「でしょ?」

@俺
「うーん……興味が沸いてきたかもしれない」

@女
「そうでしょうそうでしょう。いよっ男前! その心意気が男前!」

@俺
「いやー、で、儲かる金融商品って例を挙げるとどんなの?」

@女
「そう来ると思いました! いやー全くお客様は先見の明があるなー
 すごいなーあこがれちゃうなー! で、
 今絶賛オススメなのがこの金融商品。アラビア海を根城にする
 ソマリアの海賊事業への投資!
 なんと月20%複利! 計算すると
 たった2年で億!!」

@俺
「ちょっと待て」

@女
「はい?」

@俺
「どういうことよ?」

@女
「なにがです?」

@俺
ソマリアの海賊事業って」

@女
「ええ。つまり、ソマリア海賊事業株式会社のスポンサーになって、彼らと
 一緒にタンカー襲おうよっ! と」

killthemall.jpg

@俺
「襲うか!!!」

@女
「何で襲わないの!?」

@俺
「そこ不思議なのかよ!?」

@女
「マジですっごい儲かってるんですよ? 札束風呂ですよ? ほら!」


P1.jpg


@俺
「これトルマリンブレスレッドの詐欺だろうが!!
 昔のエロ本で見たぞこの男!!
 仮に逮捕されなくても下手すりゃ殺されるぞ!」

@女
「こっちの写真なんかほら、AK持った革命戦士さんが『アデン湾で僕と
 握手しよう!』
って。見て見てほら」

@俺
「見ない見ない!」

@女
「ありゃー、お気に召しませんかー」

@俺
「お気に召すか!!」

@女
「じゃあ、こんなのはどうでしょう? こっちは少しリスクが高くて、
 その分利率も高いんですよ」

@俺
「リスクが高いってのは? 海賊の時点でも相当リスキーだったが」

@女
「これはそういうリスクではないです。もうちょいなんていうか、
 取引の上でのリスキーさ加減って言うんですかね? 商売ってほら、
 安く買って高く売るってのが基本じゃないですか」

@俺
「うん」

@女
「で、やっぱり安く買うってのは難しいですし、高く売るってのも
 ある意味ライバルとの競争になるし、それはもう熾烈な感じになる
 わけじゃないですか。そこは知的なマネーゲームが展開されるんです」

@俺
「確かに」

@女
「いいでしょう知的。知的美女

@俺
「いいね」

@女
「黒ぶちめがねで黒髪ロングで白ワイシャツの美女に毎朝コーヒー入れて
 もらう生活、いいでしょう?」

@俺
「いいですね」

@女
「オフィスワーカーで後輩には切れ者とかやり手とか思われてるんだけど、
 アフターで二人きりになると子猫のように従順になっちゃうんですよ?」

@俺
「素晴らしい」

@女
「もちろんマジックハンドつきで。札束ビンタで」

@俺
「マジか。そのマジックハンドでものすごい事をしても大丈夫なのか」

@女
「つまむなり入れるなり額のほうにメガネをずらして
 『メガネどこメガネメガネ』ってやるプレイすら可能」

@俺
「なん……だと……っ!」

@女
「興味が沸いてきましたか?」

@俺
「沸いてきた」

@女
「その意気です! かっこいい! 私、なんだか惚れちゃったみたい

@俺
「いや、それはいい」

@女
「またまた遠慮しちゃって」

@俺
「してねぇ」

@女
「まぁその話は後にして、気が変わらないうちに。ではこちらの契約書に
 サインしてください」

@俺
「えーとここでいいの?」

@女
「そうです。で、そこに印鑑押して捨印をここに」

@俺
「えーと何々」

@女
「いや内容はサインしてからお読みになっても」

@俺
「『メキシコ麻薬組織ガルフカルテルへの出資。
 密輸品、コカインほか』」


Traffic.jpg


@女
「……」

@俺
「……『出資者は現地で経営状態を視察し、直接指導、資金援助、場合によって
 は、銃撃戦に参加する。敵に拉致された場合は情報を漏らすこと無く
 速やかに手榴弾で自爆すること』」

@女
「……」

@俺
「……『なお、この出資者は連邦法その他により処罰される恐れがあることを
 本人が了解済みであり、代理店とは何の関係もありません』」


@女
「……」

@俺
「……」

@女
「……」

@俺
「……」

@女
「……外、星がきれい」

@俺
「昼だ」

@女
「……」

@俺
「……これはつまり、アレか。武装麻薬密輸組織に出資しろと」

@女
絶対安全ですって」

@俺
「どこに安全な要素がある」

@女
「ここですよほら。ここんところに小さく」

@俺
「なんだ」

@女
『もし特殊部隊と銃撃戦になった場合は、武装組織から吹き矢を貸与する』って」

@俺
「吹き矢でどう安全に乗り切れるんだよ!! コイサンマンか俺は!!」

@女
「ええー練習してないんですか?

@俺
「するかっ!!」

@女
「じゃあ、ちょっと利率は下がりますけど拳銃一丁にしていいですから」

@俺
「特殊部隊と拳銃一丁で渡り合えるか!!」

@女
「スティーブンセガールはやってたもん!!」

@俺
「あれは映画だ!!」

@女
「多少のリスクを恐れてどうするんですか。今は攻め時ですよ!」

@俺
「明らかに攻めすぎだろ!! もうちょっと普通のは無いのかよ!」

@女
チッうっせーな。
 えーと、お客様の要望どおり、1~2年で億単位っていうと……」

@俺
「いや待て、その条件がまずかったのかもしれん」

@女
「といいますと」

@俺
「もうちょっと利率は落としていいから、せめて命の危険が無いのを」

@女
「難しいですねぇ」

@俺
「難しいか?」

@女
「えーとこれは駄目。これは無理。これは……」

@俺
「……」

@女
「これは駄目……これ……肉塊……これは……東京湾……蜂の巣

@俺
「……もういいわ……もう本当に……」

@女
「あ、あったあった。これなんてどうです? 間違いなく安全」

@俺
「……どんなんだよ」

@女
「浜辺ファンド」

@俺
「……浜辺ファンド? なんだそりゃ?」

@女
「浜辺に漂着したものを売って儲かるファンドです」

@俺
「それ……儲かるのか?」

@女
「全然」

@俺
「駄目だろ」

@女
「でもでも、ノーリスクです!」

@俺
「ノーリターンじゃねえか!」

@女
「ノーリターンなんて! 
 たぶん処分費用のほうが高くつきます!

@俺
「ノーリスクですらねぇし!?」

@女
「だけどこれは、青い海と白い砂浜を守って綺麗な美しいビーチを
 作ろうっていうすごいエコでナチュラリズムでグリーンなですね。
 自然を守るってのはエゴイスティックな欲望とは無縁の高尚で崇高な
 志なんです! それはもう」


@俺
「いやそれは解るけども」

@女
「エコを大切にする人って素敵……女性は綺麗なものが大好きですし、
 そういう活動に身を投じている人なんてきっと心が綺麗なんだろうなー
 ようし一丁キスしますかーみたいな展開もー」

@俺
「そうかなぁ」

@女
「綺麗になったビーチには一杯人が来て、たくさんの笑顔。夏の思い出。
 そしてひしめくカップルの一夜の情熱

@俺
「絶対協力しねぇ」

@女
「ええー」

@俺
「なんで俺が身銭を切って、カップルの一夜の情熱とやらに協力せにゃ
 ならんのだ!!」

@女
「そうだ! お客様はそれを覗かれてはどうでしょう!?
 これで一挙両得!?」

@俺
「馬鹿かお前は!!!」

@女
「まぁそうですよね。そもそもエコとかクソッタレた物に投資とかありえません
 よね。むしろ死ねって感じです。今、世界の最新流行は工場毒水全放流ですよ。
 金が稼げれば基本的にどうにかなるって中共が言ってますし

@俺
「2分前と言ってることがコロコロ変わるなお前」

@女
「じゃあこんなのはどうです? 北朝鮮の核密輸ファンド

@俺
「絶対嫌だ」

@女
「ええーでも、将軍様の肖像が入った赤いきれいなバッジ貰えるんですよ?
 裏に『無慈悲な謝罪要求』って掘ってあるとっても素敵なバッジで、
 これを見たら女性も思わず律動体操しちゃう! みたいな。ほらほら欲しいでしょ?」
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@俺
「いらんわ馬鹿たれ!」

@女
「それじゃ、これなんてどうです? 俺俺ファンド。一人暮らしの老人の」

@俺
「やめんか!!」

@女
「じゃあシロアリファンドは……」

@俺
「同じだ!!」












@俺
「……疲れた……」

いつのまにか、辺りは夜になっていた。

@俺
「6時間もこんな……無駄な時間を過ごすなんて……」

今日は土曜日。昨日よりもさらに多くのカップルが、楽しげに行き交う。

街路の中心には大きなクリスマスツリーが点灯している。この輝きも、
今日。12月25日をもって、終わる運命。てっぺんに飾られた星も。
これが見納めになる。

思えば、あっという間の一年だった。

そして、一年の最後に、
ほんの一時。

たった一時だが、女の子とたくさん話が出来たんだから、ポジティブに
考えればそれも悪くなかったのかもしれない。

あくまでもポジティブに考えれば、だが。


フッ……何を考えているのか。

あんな女と話していた時間が、楽しかったはずなんか無いのに――。


@俺
「……」

俺は期待していたのかも知れない。
こんな特別な日に、彼女に会うことが出来るかもしれない。
そんな事を……無意識のうちに。


もしかして、これはクリスマスが起こしてくれた奇跡、なのか?


@俺
「おい」

@女
「……なに?」

@俺
「意味不明なモノローグ呟いてないで、ドアのロックを解除しろよ」

@女
「ふあぁ~だって、早く決めてくれないから暇で。
 じゃあ、この『さいたま遷都ファンド』
 120万円投資する? 投資しようそうしよう! 
 未来の新宿は大宮だー銀座は春日部だー」

@俺
「お前ならするのか」

@女
「するわけないでしょ」

@俺
「よかった。意見が一致した



@女
「ねぇねぇ。私たちって、実は相性がいいのかもしれないですね


俺は、その言葉に小さく微笑んだ。

微笑んで――そして――




右手で携帯電話のダイヤルを押した。


<END>

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